★思春期リンゴ物語★

□リターン・ミー
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『クフフフ。おまえには帰るところがあるでしょう』




「はぁー……」

眼前にそびえるヴァリアー本部を見上げてフランは大きく息を吐いた

ボンゴレ本部から骸宛に手紙が届き、その後はばたばたと慌ただしく日本を発った。今は修行の身であるのだから例えイタリアに戻ったとしても師である骸と行動を共にすると思っていたフランは空港で告げられた言葉で途方に暮れた



『僕は綱吉の継承式の準備で忙しくなります。おまえに構っている暇はありません。解りますね』

『え…あ、じゃあニーサン達と…』

『オレらはこっちでのアジト探しがあるびょん』

『犬のお守りだけでメンどいんだから…フランまで無理』

『えー、じゃあミーどうすれば……』

『クフフフ。おまえには帰るところがあるでしょう』

帰るところ−−−そう言われて浮かんだのはただひとつヴァリアー本部。けど…でも……



「いきなり放り出されると思わなかったし、こっちに来てることだって知らせてないのに…」

二度目のため息をついたところで背後から素っ頓狂な声で名を呼ばれ、一瞬身体が硬直した。恐る恐る振り返れば予想通りの色鮮やかなモヒカン頭が今にも抱きつきそうな勢いで駆け寄ってくる

「フランちゃん?フランちゃんでしょ!まァ、大きくなって。こんな所でどうしたのよ、中に入りなさいな。ホラホラ早く♪」

なんとか抱きつかれるのは免れたが、ぐいぐいと背中を押され心の準備も整わないまま懐かしい本部へと足を踏み入れた



「ホラ、座って座って♪何か飲む?あ、昨日作ったズコットとカッサータを冷やしてあるからお茶にしましょ♪」

いそいそとお茶の準備をするルッスーリアが私服なことに気付き、そう言えばサロンに着くまで他の幹部に…ベルにも出逢わなかったことを聞いてみた

「あぁ、ボスと隊長はボンゴレ本部に行ってるわ〜。継承式も近いことだしね。マーモンは書庫にでもいるかしら?レヴィとベルは昨夜遅くに任務から戻ったからまだ寝てるかもしれないわねぇ。アタシは昨日、今日とお休みだったからちょっと買い物に、ね♪」

手も口も止めずに動かしていたルッスーリアに勧められたドルチェはベルがメールで教えてくれた"絶品"というやつだろうか

いつイタリアに戻ったのか、日本での生活はどうだったのか、矢継ぎ早の質問に答えるのが精一杯でやっとフォークに乗せた一口目のズコットを口に入れた瞬間、サロンの扉が開き寝起きでちょっと気怠げだけれど聞き間違えようのない声がフランの耳に飛び込んできた

「あー、寝みぃ…。なぁ、ルッス腹減った。なんか喰うモンな……」

途中で途切れた言葉に重ねるようにルッスーリアがまくし立てる

「あぁ、ベル起きたのね〜。ホラ!フランちゃんよ〜。今朝イタリアに着いたんですってぇ。すっかり大きくなって、ねぇ?」

口に入れたばかりのズコットを飲み込むのに失敗しゲホゲホと噎せながら声のした扉の方へ向き直るとボーダーシャツの裾から手を差し入れ鳩尾のあたりを掻いていた手の動きがピタリと止まってこちらを凝視する大好きなひとがそこにいた

「べ…べる?」

日本に発つ前はさらさらと流れるようだった金糸の髪は、今はピンピンと外に向かって跳ね、前髪も緩いウェーブがかかっている。その頭上に戴く王族の証であるティアラは僅かに左に寄っていて、それでも眩しい位にきらきらと輝いていた

「……ぉう」

やっとスイッチが入ったように動きを再開したベルはフランを凝視していた視線をルッスーリアに戻し、先程の続きをフランにも聞こえるように告げる

「部屋にいるから。……持ってきて」

そのままバタンと扉を閉めてしまった。一年ちょっとの間、フランが思い浮かべていた姿とは若干異なる容姿に驚いたがすらりとした体躯に程よくついた筋肉、内面から発せられているであろう見る者を惹き付けてやまないその華やかさにフランも身動き一ひとつ出来ずにただただ見惚れていた
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