長編小説

□「スクール・ゲーム」
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『____これより《School×Game−スクール・ゲーム−》を開催いたします』


5月15日。晴れ。

紫皇(しおう)学園に入学して一ヶ月が過ぎようとしていた時、魔法戦争が始まった。

約300年前に科学が衰退し、魔法が繁栄した世界。人類の日常や、生活に魔法が取り入れられ、300年前では実現不可能だった“夢物語"が現実となった。生身で空を飛んだり、相手の心が読めたり。魔法陣さえあれば火や、水を出現させることも可能。
しかし、死者蘇生や不老不死の実現は不可能だった。ある書物の一説によると、時空列を歪める恐れがあり、この世界の理が覆される、と書いていた。
まあ、その話は置いといて。

魔法は科学より発達していて、莫大な力だった。この世界はある魔法によって創造されていて、魔法が存在しないとこの世界も存在していない。
人類は魔法の誕生や、仕組み、世界の謎について解き明かそうとしたが無駄に終わり、今じゃ魔法なしでは生活できない。

社会が変わると共に法律も変わり、公共施設などにも魔法を取り入れた。例えば、警察や病院、そして教育を施す所、学校。

小・中学校で魔法の基礎を習い、適性する魔法を選んで、高校で実技を用いて実用させる。そのため、高校は小・中学校と違って“ある制度"があった。その制度が《School×Game−スクール・ゲーム−》というものである。

簡単に説明すれば、魔法戦争。
毎月15日に開催され、抽選で決まった高校と戦争をし、勝敗を決めるというもの。ゲームには種類があり、一番、使用されているのは〈バトル·ロワイヤル〉全校生徒参加の大戦争。キングを討ちとるまで勝敗はつかない。あとは、一対一の〈デュエル〉とか、創作ルールの〈フリーゲーム〉などがある。


そして、今日は5月15日。俺たち1年生にとって初めてのスクール・ゲーム。内容は、〈バトル·ロワイヤル〉。この日のために授業ではルールや作戦を習い、先輩たちを交えた訓練もした。このゲームを勝つために血を吐くような努力をした。先生たちも、これなら負けることはないと言った。

でも、現実はそこまで甘くなかった。



ノイズは耳元から、爆発音と呻き声はあちこちから聞こえる。それは敵のものなのか、味方ものなのか区別がつかない。
何かの薬品の匂いと、血の匂いと、煙が混ざりあって嗅覚を鈍らせる。
遠くで赤い火が燃えあがっており、灰色と黒色の煙が上空にのぼる。校舎の一部は無残にも破壊されていた。地面には班の仲間が全員倒れていた。敵も倒れていた。

そして、俺の目の前で仲間たちが戦っている。圧倒的にこちらが不利だ。レベルの違いは歴然としているのに、諦めず、必死に敵と戦っている。

恐怖で動けない俺と違って。

ガタガタと足が震える。手が震える。冷たいものが背中を駆け巡っている。目の焦点が合わない。感覚が消えていく。立っているか、座っているのか分からない。恐怖で体が動かない。思考が追いつかない。

どうしてこんな思いをしなくてはならない。
もうダメだ。負けてしまう。


俺の目の前で戦っていた仲間たちが地面に倒れた。敵は無傷に、余裕の笑みを浮かべて立っている。

もうダメだ。助からない。

敵の視線が俺を捕らえた。持っている武器を振りかざして、地面を蹴り、高く跳躍する。敵は空中で魔法を発動。魔法陣が浮かびあがり、振りかざした槌矛(メイス)が赤く輝く。

逃げることも、戦うこともできない。瞼を閉じることさえ許してくれない。
もうダメだ。そればかりが脳裏を巡る。


敵と俺の距離がどんどんと縮まっていく。もう目の前。槌矛を振り下ろす。俺の頭(かぶり)めがけて。

反応できない。______当たるッ!!!!


ガンッ!!!!!、____



視界が真っ赤になる。焦点があい、感覚が戻っていく。しかし、不思議と痛みはなかった。衝撃もない。俺はまだ呆然と立ち尽くしている。

どうなっているんだ?


混乱する。さっきまで確かに敵は俺の目の前まで迫っていた。槌矛が振り下ろされていた。でも、衝撃も痛みもない。目の前に赤い盾が出現している。

そして、その盾が敵の槌矛を防いでいる。

「っ!!!」


敵の顔が驚きに染まる。距離をとるため槌矛で盾をはじく。俺から離れた場所に着地し、臨戦態勢をとった。
盾は弾かれたと共に液体となって地面にシミをつくった。

敵は俺を睨む。いや、俺に焦点をあわせていない。俺の後ろを見ている。
つられるように俺も後ろを見た。ゆっくりと振り返った。


そこには_____




黒いロングコートを羽織った男が立っていた。胸元には赤色の0に斜線が引かれているマーク。背中には赤い十字架。そして、頭を覆い隠すフードと、顔の上半分を覆う銀の仮面。

その姿は異様だった。敵なのか味方なのか分からない。すべてを覆い隠している。

仲間、なのか……?

そんな疑問を脳裏で問いかけた。敵が臨戦態勢をとっているからコイツは仲間に間違いないが、こんな奴は校内で見たことがない。もしかして審査員(ジャッジメント)か……?

男が動く。


「大丈夫か、1年」

真っ直ぐ敵を見たまま俺の横に立ち、問いかけてくる男。視線を敵から外さない。

「え………あッ、ハイッ!!」

焦って声が裏返ってしまった。

「そうか」

男は安堵したように口元をゆるめ、そして。


「じゃ、ちょっと下がってろ。すぐに終わらす」

地面に魔法陣が描かれる。男は右手を魔法陣にかざして、紅い液体を一滴、落とす。

魔法陣は紅く輝き、武器を形成する。真紅の刃をもつ長刀と鞘。右手に長刀をもち、左手に鞘をもつ。そして、次の魔法を展開する。脚力を強化する身体強化系魔法。地面を強く蹴り、一気に距離を詰める。一閃。刀を振るった。敵は槌矛で長刀を受け止める。男はその動きを予測していたかのように槌矛をならして、右足を軸に体を一回転。そのまま鞘で鋭い突きを繰り出す。敵の胸を真っ直ぐに突き、後ろに吹き飛ばす。

「がはッ!!!!!!」

胸の圧迫。空気を吐き出す敵。空中で一回転をし、体勢を立て直す。そして、魔法を発動。地面と垂直に魔法陣が浮かびあがり、凄まじい電撃を吐き出す。電撃は刃になり四方八方から男を襲う。男は動じない。足元に魔法陣が浮かび上がる。空間を遮断。男は電撃が当たる直前で、空間ごと電撃を遮断した。

そして______


「____ 断空ッ 」

長刀を振り下ろし、空間を断つ。斬撃が敵を襲う。敵は宙を舞い、ドサリ、と地面に落ちた。意識は、失っているようだ。


勝負は、男の勝利で幕を閉じた。




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