Knight ― 純白の堕天使 ―

□第九章 邪悪な魔力
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肩の痛みを堪えながらすぐに体を起こし、フィアはレナに詫びた。

「いきなり申し訳ありませんでした。……お怪我は?」
「わ、私は、平気です。でも、フィア様、肩が……!」

今にも泣き出しそうな顔をして、レナが言う。
フィアの白いタキシードの肩の部分は赤く染まっていた。
その染みは見る見るうちに、広がっていく。

「大丈夫ですよ。慣れていますから」

フィアはレナを安心させるように微笑むと、立ちあがって割れた窓ガラスを見た。

僅かにではあるが、邪悪な魔力が残っている。
普通の魔力ではない。
悪意と、殺気に満ちた魔力。
何の魔力だろうか。
フィアが考えていた時。

「フィア!」

会場にシストが飛び込んできた。
随分と焦った様子で。

「くそっ! 逃げられたか」

割れた窓、騒然とした会場を見て、シストは小さく舌打ちする。
状況が飲み込めないフィアは、シストに訊ねた。

「何のことだ?」
「悪い、詳しくは後で説明する。……怪我人は?」
「いない」

先程周囲を見渡した時に一応確認したが、怪我をした人間はいなさそうだった。
小さく首を振りながらのフィアの言葉に少し安堵した顔をするシスト。

「そうか。よかった……って、お前が怪我してるじゃないか!」

すぐにフィアの肩の傷に気づいて、シストは声を上げた。
そして心配そうにフィアの顔を覗き込む。

「だ、大丈夫かこれ」

着ているタキシードが白い分、赤い血は良く目立つ。
酷く痛々しいそれを見て、シストは眉を下げた。

「これくらい大したことない。忙しい奴だな」

怪我をした当人以上に慌てているシストにフィアが苦笑する。
そしてすぐに表情を引き締めると、窓の外を見た。

「シスト、お前は今のこの攻撃が予想外、というわけではないようだな? 
 俺の任務についてきたのも、パーティの前に姿を消したのも、そのためか?」

詳細はわからずとも、それくらいは、想像がつく。
フィアがそういうと、シストは小さく頷いた。

「あぁ。こうして攻撃してくる奴がいるかもしれないから見張っておけ、と言われていた。
 だからこうやって攻撃する奴を止めようと思って外にいたんだが」
「言われていた、って誰に……ッ?!」

誰にそんな指示をされたのかと問おうとしたフィアは自分の視界が歪むのを感じ、息を呑んだ。
ぐらり、と世界が回るような感覚。

―― くそ……毒か?

心の中で呟く。
歪む視界と微かに震える身体。
風邪を引いた時のような、鈍い頭痛。
それが、身体の中から冒される感覚であることはすぐに悟ることが出来た。

しかし、此処で倒れるわけにはいかない、とフィアは思う。
今は任務中。
しかも、シストの様子から推測する限り、ただの”貴族の護衛”の任務ではないだろう。
その場合、一人でも人手があった方がいいはずだと、フィアは冷静に考えていた。


 
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