Knight ― 純白の堕天使 ―

□第五章 仲間と従兄と
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握手しつつ、シストはフィアの手をじっと見つめていた。
何処か感心するように。
しげしげと自分の手を見つめるシストにフィアは訊ねた。

「どうかしたか?」
「へ?いや、随分細い手だなっと思ってさ。
 気をつけて握らないと折れそうだ」

冗談めかした口調でそういって、シストはにっと笑った。
厭味のない笑顔に自然とフィアの表情も緩む。

それを見たシストはへぇ、と少し意外そうな顔をした。
そして、少し悪戯っぽい表情を浮かべ、言った。

「可愛い顔も出来るじゃん。
 それに、お前、護衛向きだな。顔だけ見ると」

その言葉にフィアは目に見えて不服そうな顔をした。
そして半ば拗ねたような声色で、言う。

「……それは男らしくないと言いたいのか?」

大きく分けて騎士の仕事は二つ。
魔獣などの討伐と、貴族の護衛。
そのために護衛向き、ということは裏を返せば戦いには向いてなさそう、という意味合いになる。
それは少し不愉快だ、と僅かに顔を顰めてフィアが言うと、シストは慌てて否定した。

「違うって。お前の強さはお前がノトの時から知ってる。
 さっきの決闘も見せてもらった。
 あれなら十分此処でやっていけるだろうし。
 俺がいいたいのは貴族のお嬢様方が好きそうな顔だなってこと。
 気を悪くしたよな、ごめん」

そういって、シストはすまなそうに笑う。 
悪気はないようだが……結局女顔だという意味じゃないか、とフィアは溜息を吐いた。
……尤も、女なのだからどうしようもない事なのだけど。

そして、ふと気付いた。
何故、この人物は自分のことを知っているのだろう? 
それも、今ノトの頃とか言っていなかったか? 
自分はこの少年、シストに出会ったのは勿論、見たのすら今日が初めてだ。

「ノトの時からって……何でだ?シストはルカと同期ぐらいだろう?」

フィアはそうシストに問いかけた。
少なくとも自分の同期ではない、とフィアがいうと知らないのか?というように首を傾げたシストは答えた。

「確かに俺はルカと同期。
 でも、お前有名人だったからさ。
 ノトの中で凄い力を持った美少年がいるって。
 氷属性魔術が得意だって聞いてもいたし、雪狼に入ってこないかなぁとずっと思ってたんだ」

そういって、明るくシストは笑う。
それを聞いてフィアはなるほど、と溜息を吐き出した。

「それはどうも」

肩を竦め、フィアは感情の籠らない声で答える。
美少年だのなんだのと、そういった言葉をかけられることはしばしばあり、その度に呆れたようにそう返答していたのだ。

それをきいてシストは溜息を吐く。
そして肩を竦めながら、いった。

「まったく……噂通りの奴だな、お前は」
「噂?」

少しだけ、身構える。
先刻の決闘騒ぎの原因になったような噂だったら、訂正しなければならない。
そう思いながら眉を寄せるフィアの頬を軽く小突いて、シストは説明した。

「凄く綺麗で強いのに、ものすごーく無愛想だってさ」

皆勿体ないって言ってたぞ? 
シストは冗談っぽく笑って、そういう。
真剣な話かと思っていたフィアは拍子抜けなシストの返答に一瞬ぽかんとした後、溜息を吐き出しながら、いった。

「……悪かったな。無愛想で」

フィアはフン、と鼻を鳴らしつつ、笑った。
シストもそれを見てくつくつと笑い声をあげる。

「フィアさ、絶対にその性格で損してると思うよ。
 そうやって黙っていれば綺麗なんだから彼女の一人や二人いても可笑しくないし、女王様の執事辺りに召しあげられてもおかしくないのにさ」

シストは真顔でそういう。
フィアは苦笑した。
元々女性であるフィアは女性にモテても仕方がないし、かといって男にちやほやされたいと思ったこともない。
しかし此処は気の利いた冗談の一つも言うべきか、と思いながらフィアは肩を竦め、口を開いた。

「失礼な奴だな。黙っていようがいまいが女性は寄ってくる。
 性格で女性が離れていったことはそうないぞ」

それは事実だった。
大抵の女性はフィアが冷たくあしらうと離れていくのだが、中にはそういうドライな所が素敵!といってなおさら燃え上がる女性もいるのである。
尤もフィアにとっては迷惑なだけなのだが。

それを聞いて、シストは可笑しそうに笑った。

「ははっ。そうかよ、まぁ、いいや。
 お前がモテようがモテなかろうが仕事が出来ることが重要だからな。
 いつかお前の実力、見せてもらうぜ?」

そういってシストはアメジストの瞳をきらりと人懐っこく輝かせる。
そんな彼を見てフィアもサファイアの瞳を細めながら、いった。

「あぁ。俺もシストの実力を見られるのを楽しみにしてる」

そういうとフィアは一度、深呼吸をする。
そして改めて彼に手を差し出しながら、言った。

「まだちゃんと名乗っていなかったな。
 俺はフィア。フィア・オーフェス。
 ルカの従弟で、今日からヴァーチェに昇進した。宜しく、頼む、シスト」
「あぁそういやお前から名前は聞いてなかったなぁ……宜しく」

シストはそういってフィアの手を握り返す。
そしてフィアとシストは笑いあったのだった。







  
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