Knight ― 純白の堕天使 ―
□第三章 実力
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支度を済ませて、フィアはドットの前に姿を現した。
すでに来ていたドットはやや苛立った様子で自分の武器である剣を弄っていた。
「まだ時間前だろうに……」
やれやれ気の短いことだ、と思いながらフィアは彼の方へ歩み寄り、声をかけた。
「待たせたな」
「おぉ、って、お前、ナメてんのか?!」
余裕の表情を繕ってフィアの方を見たドットは、彼の手に握られたフルーレを見て、目を吊り上げた。
フィアとはノトの時から同じように訓練をしてきた。
そのため、フィアが普段使っている武器をドットも知っている。
今彼が手にしているのがその魔術剣ではなく、訓練用の剣であることにも、当然気づいた。
だからこそ、フィアが本気ではないことを知り、怒っているのである。
その様子を見てフィアは小さく鼻を鳴らすと、きっぱりと言い切った。
「別に……ナメているつもりはない。
ただ、俺が自分の剣を使ってやったら、手加減出来る自信がないのでな」
そう言って緩く口角を上げるフィア。
冷たい視線。
鋭い眼光。
冷静な声色。
そこに宿っているのは、冗談でも虚勢でもなく……本気の色で。
冷たい声音で平然といってのけたフィアにドットが目を見開く。
同時に怒りが湧いたらしく、早くやるぞ! と吠えた。
二人は闘技場の中央に立つと武器を構えた。
カチリ、と一度剣をぶつけてから礼をし、距離を取る。
そしてもう一度礼をした。
「どっちから行く」
ドットが硬い声で、フィアに問う。
「そっちからどうぞ」
フィアはさらりと言った。
相変わらず冷静な表情で。
その余裕ぶりに焦ったのか、ドットは闇雲に突っ込んできた。
大きめの剣が振り下ろされる。
風を切る音が重たい。
あっさりとそれを躱しながら、フィアは相手の出方を窺った。
唇を噛み締めたドットは真剣そのものの表情で、フィアに幾度も斬撃を繰り出す。
恐らく当たったら大きなダメージになるのだろうが……当たらないのでは全く意味がない。
無駄が多い、モーションが大きすぎる、とフィアは冷静に分析する。
大振りは、フィアのような小柄な相手には特に無意味だ、と。
まるで様子を見るかのように攻撃を躱していたフィアだったが、それにも飽きてきた。
無暗に決闘を長引かせるのも悪趣味だし、そろそろ終わりにしよう。
そう思ったフィアはあっさりと、ドットの剣先をフルーレで弾いた。
力技で押されているとはいえ、弾き方を考えればフィア程度の力でも容易に勢いを相殺出来る。
流石に通常のフルーレでは攻撃を受けるだけで曲がってしまうために、魔力で曲がらないように強化はしたが。
鋭い金属の音。
あまりにあっけなく武器を弾かれたことに驚いた顔をするドット。
すっとフィアの蒼い瞳が細められる。
「甘いと言っている」
フルーレで攻撃を防ぐなんて無理だと思って油断したのだろう。
フィアは小さく呟いて、ドットの剣の柄に魔力をぶつけた。
その刹那、パキパキとドットの剣の柄が凍りつき、その冷たさに驚いたドットの手が緩んだ。
その一瞬の隙を突いたフィアはドットの剣を叩き落とした。
カラン。
間抜けな音を立てて、ドットの剣が転がる。
闘技場の中はしん、と静まり返った。
あまりにあっけない結末に、呆気に取られる観客(ギャラリー)。
その静けさの中、フィアは静かに言った。
「……チェックメイトだな」
次の瞬間にはフィアの剣がドットの首に突き付けられていた。
つまり、それはフィアの勝ちを意味するもので。
身動きをとることが出来ないまま、ドットは自分に突きつけられた剣と、その剣の持ち主を見つめることしか出来なかった。
フィアは無言で剣を下した。
ドットがその場に座り込む。
フィアはそんな彼を冷たい目で見下ろして、いった。
「これでもまだ俺が弱いと?」
凛とした声で問いかけるフィア。
がっくりと項垂れたまま、ドットは答えない。
その沈黙が全ての答えだった。