Knight ― 純白の堕天使 ―

□第一章 男装騎士
2ページ/4ページ


それにしても、とルカは呟いて、フィアを見た。
フィアのサファイアの瞳が怪訝そうにルカの方を向く。
緩く首を傾げる彼を見て、ルカは口を開いた。

「相変わらず、フィアが自分のことを”俺”っていうのには慣れねぇな」

無邪気な子供のように、にかっと笑いながらルカは言う。
それを聞いてフィアは目を見開いた。
そして少し不機嫌そうにルカを小突く。
眉を顰め、声を殺して言った。

「あまり大きな声で言うな」

フィアは念のため辺りを見渡し、人影がないことにほっとした顔をした。
どうにも、この不用心な従兄の言動にはひやひやさせられる。

「あ、そうだな。こういう所で言うのはまずいか」

ルカはひらひらと手を振りながら肩を竦める。
悪い悪いと言いながらも、反省の色は見えないルカ。
元々、そういった細かいことを気にしない性格なのである。

「まぁそれは置いといて」

呟いたルカはふっと笑って、言った。

「でも俺は、逆に今までばれてないことが奇跡だと思うけどな。
 フィアが女だってこと……いてっ」

ばし、と先程より強くフィアに叩かれて、ルカは声をあげる。
フィアはじとりとした視線を向けて、溜息を吐き出した。

「馬鹿、だから、言うなって……誰かに聞かれたらどうするんだ」

そう。
白皙の美少年、とでも称されそうな彼、フィア。
彼は本当は少年ではなく、少女。
それが、フィアが周囲に隠している秘密だった。
本来男性しかなることが出来ない城勤騎士になるため、性別を偽ったのである。

騎士団入団のために性別を隠すのは、ルカのおかげで容易だった。
ルカはフィアの従兄であると同時、ディアロ城騎士団の雪狼の統率官である。
そんな彼がフィアを推薦したのだ。
“彼は騎士に相応しい人材だ”と。

そして何より、フィアが剣・魔術ともに大人レベルの能力を持っていたことも、理由の一つであろう。

剣術は、騎士団の中でもトップクラスの実力を誇っていた従兄のルカに教えてもらったのだが、元々の素質もあり、フィアの剣術の腕は見る見るうちに上がっていき、大人さえも負かすことが出来るレベルにまでなった。

そして恐らくフィアが認められた決め手は、彼女が持った人並み外れた魔術の腕前。
彼女が得意とするのは、自然を操る魔術。
殊に、氷魔術が得意だ。
僅かにでも念じれば、周りにあるもの全てが凍りつく。吹雪を起こしたり、氷による障壁を張ったりすることも、容易に出来た。
普通、大人の魔術師でも、此処まで綺麗に魔力を操れるものは、そう居ない。

暫し口の軽い、不用心な上官を睨みつけていたフィアだったが、やがて小さく息を吐き出した。

「……まぁ確かに俺も、“あの日”まで男として生きることになるとは思わなかったが」

フィアはぽつり、とそう呟く。
少し長い前髪が、彼の表情を隠した。
ルカはそれを聞いてすぅと目を細めながら、”そうだな”と頷く。

そう、人並み外れた魔力を持っていた彼……否、“彼女”も、昔は騎士になりたいなどとは思っていなかった。
彼女が幼い頃起きたある事件以来、フィアは自分の魔力を騎士として戦うために使うことに決めたのである。



 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ