Knight ― 純白の堕天使 ―
□第十九章 傍にいたい
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第十九章 傍にいたい
そんな騒動の翌朝。
フィアは炎豹の騎士たちと合流していた。
無論、炎豹との共同任務のためである。
シストも一緒に行くつもりだったらしいのだが、タイミング悪く仕事が入ってしまい、別行動となった。
先日のパーティーの時にフィアを襲ったものの情報が入ったため、そちらの仕事を優先することになったらしい。
出発の朝は、からりと晴れた、任務日和。
氷属性の魔力使いでもそれなりに戦いやすい気温である。
フィアは思い切り伸びをした。
柔らかく吹いてきた風が、亜麻色の髪を揺らす。
「一緒に行けなくて悪いな。気をつけていけよ?」
見送りに来ていたシストがフィアにいった。
隣でルカもうんうん、と頷いている。
ほんの少し心配そうな二人を見て、フィアは、笑みを浮かべた。
「あぁ。シストこそ、気をつけろ。俺と同じ目に遭わないように。
彼奴ら、動きが相当速かったし……」
気をつけろよと、と案じるようにフィアが言うと、シストはくすっと笑った。
「はっ、馬鹿にすんなよ? 華麗に避けてやるさ」
冗談っぽく言うシストに、やや呆れた顔をしつつ、フィアは軽く肩を竦めた。
「……だろうな」
そう言ってから互いに笑いあって、シストとフィアは互いの拳をぶつけ合った。
それを見ていたルカが、いつの間にこんなに仲良くなったんだ? と少しだけ不思議そうな顔をしていた。
昨日のシストの魔力によるフィアの頬の傷は治っている。
無論、アルが治した。治してもらっている間、女の子何だから顔に作ったらいけないだの、ちょっとした傷から感染症に罹ることだってあるのだから気を付けなければいけないだのとアルに散々説教されたのは言うまでもないが。
一頻り笑った後、フィアはルカの方を向き、言った。
「じゃあ、行ってくる。ルカも気を付けていってこいよ」
フィアに案じられたのが意外だったのか、一瞬間が開いた。
そのあと、何だかなぁという顔をして、頬を掻くルカ。彼は一つ息を吐いて、自身の従弟に言った。
「そんなに簡単にやられるはずがないだろう。
フィア、お前俺の立場忘れてないか? 俺一応、セラなんだけど」
これでも一応統率官だぞ、と溜息混じりにルカが言うと、フィアは鼻で笑った。
「何を言っているんだ、魔術が使えない能無しの癖に。
お前の立場? 俺の従兄兼雪狼での上司だ。一応な」
「一応って……」
ルカに敬意を示す気など欠片ほどもない様子で軽口を叩くフィアを見て、シストとルカが苦笑する。
これが彼らしさではあるが、やはり可愛げは感じない。
「フィア、そろそろ行くって!」
そう呼びかけながら、アルがトコトコと走ってきた。
彼は草鹿の騎士。
草鹿の騎士は基本的に医術を専門としているが、炎豹の騎士の防御役として、大きな任務に同行することがある。
今回、アルも一緒に参加するらしかった。
彼はルカとシストに一礼して、フィアの手を取る。
どうやら、遅いフィアを迎えに来たらしい。
「行こう?」
フィアは、ちょこりと首を傾げるアルに頷き返した。
「あぁ。そうだな」
そういって笑いあう様はまるで兄弟のようである。
手を繋いで歩いていくアルとフィアに向かってシストが一言叫んだ。
「フィア、アル! 黒族に誘拐されんなよ!
お前ら可愛いから連れ去られて人形にされても知らないぞ!」
黒族というのは綺麗な人間を連れ去り、人形にして飾る知性を持つ、悪趣味な生き物だと聞いている。
尤も、騎士に手を出すほど馬鹿な魔獣ではないため、恐らくシストなりに彼らの緊張を解してやろうと思ったのだろう。
フィアは顔を顰めながら、余計な御世話だと呟き、アルは自分がフィアを守るから大丈夫だと根拠なく言い返している。
二人らしい反応を見て、ルカとシストは笑った。
フィアとアルはそんな留守番組に手を振って、前を歩いていく炎豹のメンバーを追いかけたのだった。