Knight ― 純白の堕天使 ―
□第十七章 懺悔
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第十七章 懺悔
他愛もない話をしながら歩く間にフィアはシストの部屋に着いた。
ドアを開けながら、シストは苦笑気味にフィアに言う。
「お前の部屋に比べると若干散らかってるけど、堪忍な」
「別に、気にしない」
冗談っぽく笑うシストに向かってフィアは首を振り、室内に入った。
彼の言葉通り、シストの部屋は色々なものが置いてあり、確かに少々散らかっているようには見える。
しかし、元々は几帳面な性格なのだろう。
不要なものがごちゃごちゃと置いてあるわけではなさそうで、本棚に入っている本などは綺麗に並べられている。
読書が好きだといっていたこともあって、本棚は埋まっているし、仕事用のデスクの上にも何冊かの本が書類と一緒に鎮座していた。
「なんというか、シストらしい部屋だな」
ぐるりと部屋を見渡したフィアはそう感想を漏らす。
「そうか? っていうか、俺らしいって何だよ」
シストは苦笑気味にそう言う。
騎士の棟の部屋の作りは、大体一緒だ。
それなのにシストらしいとは何なのか、と問いたいらしい。
確かにそういわれてしまうと、よくわからないのだけれど……
「いや、机の上とか?」
そういう細かなところがお前らしく見える。
そうフィアが言うと、シストは机を見て、納得した顔をした。
「まだ片づけてない書類あるからなぁ。いい加減に、何とかしないと」
シストが口に出した通り、机の上には様々な書類が積み重なっている。
書類整理が得意なシストはよくこの手の書類仕事を押し付けられている。
しかし、こうした仕事も割りと嫌いじゃない、と以前シストが話していたのをフィアも覚えていた。
「なんだかんだで、誰かの役に立てればいいんだよ、俺は」
そんなことを言って笑っているシストは、相当のお人よしだとも思っている。
普通、書類整理は苦手な騎士が多いのだから。
雪狼の統率官であるルカが、その典型例。
おおよそ、これらの仕事をシストに任せているのも、ルカだろう。
その所為で、彼は少々目が悪いらしく、時折眼鏡をかけている姿も見かける。
少々気の毒ではあるのだが、そうした作業も出来る器用な騎士は存外少ないため重宝されるのだろう、と思っていた。
「……ん?」
ぐるりと部屋を見回して、フィアはあることに気が付いた。
本や書類があちこちに積み重なった部屋。
一見散らかっているように見えるその部屋の中で、ある一点だけ、とても綺麗に片付いていることに。
何故、此処だけ? とフィアは疑問に思う。
異様なまでに、綺麗に片付いているのだ。
まるで、その空間だけは……誰にも、触れられていないかのように。
何かに、守られているかのように。
そんなフィアの様子に気が付いたようで、シストは微笑んで、訊ねた。
「気付いたか? お前、勘がいいからな」
「観察力の問題だ。勘じゃない」
偶然気が付いた訳ではないぞ、と不満げにフィアが言うと、シストは思わず噴き出した。
変なところで負けず嫌いなのは、ルカに少し似ているかもしれない。
「ははは、そうかよ」
シストは笑いながらフィアに椅子に座るよう勧め、自分はベッドに腰かけた。
そんな彼の様子を見てどうやら短い話ではないらしいということを察する。
暫しの沈黙の後、フィアはシストに訊ねた。
「見てもいいか?」
彼の視線は、先刻の、綺麗に片付いた空間に向けられている。
シストは小さく頷いた。
「あぁ。そのために連れてきたんだ」
「ありがとう」
小さく礼を言うと、フィアは椅子から立ちあがり、その一点に近づいた。
どうやらその空間には保護の魔術がかけられているらしく、塵一つ落ちていない。
そこにまるで供え物のように置かれていたのは……