Knight ― 純白の堕天使 ―

□第十五章 炎豹との任務
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第十五章 炎豹との任務



シャワーを浴び終え、制服に着替え直したフィアは急いで部屋を出た。

もうすぐ集会が行われる時間だ。
それに間に合って仕事に取り掛からなくてはならない。
怪我で休養していたのだから、多少の遅刻は恐らく見逃してもらえるが、時間に遅れるということはフィアのプライドが許さなかった。

幸い、体力も魔力も回復しているし、肩の傷の痛みもない。
無茶をするなと言われたばかりだが、これは無茶ではない、と自己判断して、フィアは廊下を走っていった。



***



「うわっ?!」

慌てて走っていたフィアは角を曲がったところで誰かにぶつかった。
騎士団の中では小柄なフィアはそのまま尻もちをつく。

ぶつかった相手は驚いた声を出した。

「申し訳ない。大丈夫ですか……おや?」

フィアはその人物を見上げて目を見開く。
丁寧な口調、穏やかな声。
それだけで相手は十分予想できたのだが……

「ジェイド様!」

フィアがぶつかった相手は、草鹿の統率官、ジェイドだった。

「申し訳ありません!」

慌てて謝るフィア。
迷惑をかけまいと急いでいたにもかかわらず、これでは本末転倒だ。
そう考え、しゅんとしてしまったフィアの様子を見て、ジェイドは苦笑した。

「そんなに畏まらなくとも大丈夫ですよ。
 僕はそんなに気にしていませんし、大して痛くもありませんからね」

気にしないでくださいな、といって軽く手を振ったジェイドは、少し心配そうに眉を下げ、フィアに問うた。

「それより、そんなに走って大丈夫なのですか?
 さっき目を覚ましたばかりなのでしょう?」

ジェイドはフィアに手を貸して、立たせながら心配そうに訊ねた。
ジェイドも、当然フィアのことを心配していた。
命に別状はない、そのうち目を覚ますだろうとわかってはいても、重症であったことは事実。
無理をすることには賛成できない。

「アルが心配していましたよ。
 もう一日ゆっくり休んだ方がよいのでは?」

そう言いながら、ジェイドは首を傾げる。
柔らかな翡翠色の瞳が、じっと見つめてくる。
フィアはそれを見つめ返しながら、小さく首を振った。

「いえ、もう大丈夫です。働くことで早く感覚を取り戻したいので。
 ご心配おかけして、申し訳ありませんでした」

フィアがそう言って頭を下げるとジェイドは穏やかに微笑した。

「大丈夫なら良いのですが、決して無理はしないように。
 あぁ、それと……走らなくてもいいように、僕が集会所まで送りましょう」

何か思いついたように、ジェイドは悪戯っぽい表情を浮かべた。
彼の提案の意味をすぐには理解できず、フィアはぽかんとする。

「え?」

何のことですか、とフィアが訊ねる前にフィアの体はふわりと、宙に浮かび上がっていた。
フィアは驚いて小さく声をあげる。
ジェイドはその様子を見て小さく笑い、言った。

「ああ、驚かせてしまってすみません。
 僕、空間移動の魔術が得意なのですよ。
 走って集会所に行くよりは楽なはずです。
 くれぐれも、着地にお気をつけて」

気をつけろといわれても、どうすればいいのかわからない。
しかし、折角の好意を無駄にするわけにもいかない、とフィアは困惑気味に礼を言った。

「あ……ありがとうございます」

フィアの言葉に、ジェイドは穏やかに微笑む。

「では行きますよ。空間移動(スペース・トランスファー)」

ジェイドが魔力を込め、手を振った次の瞬間、フィアは集会所にいた。
本当に一瞬だ、と思わず感心する。

フィアは初めてこの魔術を体験したのだから無理もないのだが……本来、感心する暇はない。
次の瞬間には、魔力が切れてジェイドの言っていた”着地”に入るのだから。



 
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