Knight ― 純白の堕天使 ―

□第八章 初任務
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第八章 初任務



オルフェウスの塔の一件から数日後。

「護衛?俺がですか?」

訓練の最中に、フィアは先輩の騎士に呼ばれていた。
どうやら、仕事らしい。フィアを呼んだ先輩騎士は頷いた。

「ルフェルデ家の御令嬢の護衛だ。
 ……という名目だが、本当は彼女の縁談を破談にすることが目的らしい」

そんな任務の内容を、先輩騎士は大真面目にフィアにそう告げる。

「は?」

フィアは彼の言葉にきょとんとした。
結婚相手が決まるということはめでたいことだ。
それを破談にすることが目的とは、何が不満だというのか。

フィアの顔を見て先輩騎士は苦笑気味に言った。

「貴族ってのはややこしくてな。
 ルフェルデ家の御令嬢を気に入ったのが彼女の家より位の高い家の男なんだと。
 本人が嫌がっているから両親も無理に結婚させるつもりはないけど、無下に断ると後が面倒だろう?
 ほかに婚約者がいると言って誤魔化したらしい」

その言葉で合点がいったというように、フィアは頷いた。

「それで、相手の男が婚約者の顔を見たいとでも言った、という訳ですね」

そんなフィアの言葉に、苦笑まじりに頷いて彼はいう。

「ご名答。尤も、護衛の方も仕事だがな。最近は色々物騒だからさ」

そうですね、とフィアは小さく頷いた。

貴族の令嬢というのはその家柄だけでも十分に狙われる。
誘拐されて酷い目に遭わされたり、その家を恨む人間に毒を盛られたり……
物騒な話だが、そういった事象がないとは言い切れないのだ。
それ故、時折騎士は護衛として、そうしたパーティに参加することになる。
尤も、今回のフィアの任務は少々特殊ではあるが。

まぁ頑張れ、といって先輩騎士は去っていった。
その背を見送って、フィアは溜息を吐く。
初っ端の任務が魔獣討伐ではなく、貴族護衛である辺り、雪狼らしいなと思いつつ。

「仕事か」

よし、と気合を入れてフィアは鎧を外した。
護衛兼婚約者のフリとは、いきなり厄介な仕事を押し付けられたものだと苦笑する。

騎士の仕事は大きく分けて二種類ある。
魔獣退治と護衛。
魔獣退治はそのまま、この国で発生する危険な魔獣を駆除することだ。
魔獣退治が得意なのは、攻撃主義の炎豹とその補助をする草鹿の騎士たちだ。
一方、護衛は貴族や用心などの傍に張り付いて、危険がないよう守ること。
特に、女性の警護をすることが多い。
攻守のバランスがとれているフィアたち雪狼の騎士たちは、比較的此方の任務にあてられることが多い。
いずれにせよ、どの任務も簡単でないことは確かだ。

歩き出しかけて、フィアは自分の服装に気づいた。
現在は制服である白い騎士服。
無論、その格好も可笑しいということはないのだが、令嬢の婚約者のフリをするには不適切だ。

「この格好のままじゃ、可笑しいよな。着替えなくては」

婚約者の真似事をするというのなら、それに相応しい恰好をしなくてはならない。
態度などでバレるならいざ知らず、見た目の時点で嘘だと見抜かれたのでは、あまりにも情けない。

そう呟いたフィアは自室に帰って着替えることにしたのだった。




 
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