Knight ― 純白の堕天使 ―

□第七章 真実
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第七章 真実




「ルカ、お前も来るのか?」

オルフェウスの塔の長い螺旋階段を上りながらフィアは前を歩くルカに訊ねた。
ルカは振り向かずにいつも通りの声音で答える。

「お前一人で行かせる訳にはいかないからな」
「……馬鹿にするな。迷子になんかならないぞ」

確かにまだ幼かった頃は城の中で迷子になったこともなくはなかったが、今はもうそんなことも起きない。
一人で行けたのに、と少し拗ねたような口調で言う、フィア。
しかしルカの言葉が意味する所はそこではないらしく、ルカは苦笑気味に言葉を濁した。

「そうじゃなくてな。……ああ、ついた」

ルカは言葉を切って、ドアを開けた。

埃の臭いと蜘蛛の巣に包まれたオルフェウスの塔の部屋。
かつては何らかに使われていたらしいのだが、今はただの廃墟。
立ち入る人間も居ないという。

人が住まなくなった家は寂れると聞いたことがあるが、まさにその通り。
窓ガラスも砕け、外からの風が吹きこんでいる。
月明かりが微かに射し込むだけの薄暗いその部屋に近づく人間はそうそう居ないだろう。
幽霊が出る、という噂さえも立ってしまうほどだ。

「……あ」

ふと、フィアは声をあげた。
誰もいないはずのその部屋に一人の女性が座っているのである。
まさかこんなところに人がいるなんて、とフィアは息を飲んだ。

女性はフィアたちの方を向いたようだった。
薄暗い部屋の中では、その顔は、まだよく見えない。
女性だと思ったのは、その影が身に付けているのが、どうやら豪奢なドレスのようだったから、だった。

「ディアノ様、フィアを連れてきました。
 お待たせして申し訳ございません」

ルカがその女性の前に跪き、頭を垂れる。
フィアも慌てて同じようにしながら、挨拶をした。

「遅れてしまい、申し訳ございません。フィア・オーフェスと申します。
 以後、お見知りおきを」

フルネームを名乗ることも随分減ったな、とふとフィアは思った。

家族が死んでからファミリーネームを名乗ることが少なくなったから、である。
その理由は、自分一人がオーフェス家の生き残りだと実感してしまうから。
自分しかオーフェスの名を名乗る者がいないことが哀しくて、フィアは聞かれない限り、自分の姓を名乗るのをやめてしまったのである。

しかし、ルカの話し方からして、今自分が話している相手が位の高い人だとわかったため、
失礼のないように、とフルネームで名乗ったのである。

フィアとルカの様子を見て、女性はくすりと笑った。

「顔をあげて、私によく顔を見せてくれないか」

少し低めの声だが、確かに女性の声だ。
言われた通りフィアは顔をあげてはっとした。

目の前に立っているのはフィア達が仕えている女王……ディナにそっくりだった。
長い焦げ茶色の髪に鮮やかな赤と緑の瞳。
珍しいはずの、オッドアイ。
長い緑のドレスを身に付けた、美しい女性……

「陛下……?」




 
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