Knight ― 純白の堕天使 ―

□第一章 男装騎士
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その者、戦場に咲く一輪の花。
氷のようなその瞳は冷たく、しかし、他者の心をとらえ、離さない。
人は、その者をこう呼ぶ。

―― 純白の堕天使。



Knight ― 純白の堕天使 ―




「はぁ……」

魔力の満ちる国、イリュジア王国の中心部。
国主の住まう城……ディアロ城の、一画。
そこで、一人の少年が溜息をついていた。

そよそよと柔らかな風が吹いて、彼の髪を揺らしていく。
咲き誇る薔薇の花が、淡い香りを周囲に振りまいていた。

亜麻色の柔らかい短い髪。
凛としたサファイアブルーの瞳。
一見すれば、少女にも見える、麗しい容姿……貴族のような整った顔立ちの彼が着ているのは、白い騎士の制服。
彼は一人の、勇ましい騎士だった。

と、そこへもう一つの影が立つ。
黒い短髪にルビーレッドの瞳の青年が歩み寄る。
そして長身の彼は、亜麻色の髪の少年の隣に座った。

「おーい……何で溜息吐いてんだよ」

溜息をついている少年の顔を覗き込みながら、苦笑気味に首を傾げた彼は問う。

「フィア……少しは嬉しそうな顔をしろよ。
 出世だぜ?それも、超特例のな」

フィア。それが亜麻色の髪の少年の名前。
そして彼に話しかけている黒髪の青年の名はルカ。

彼の言葉にフィアはルカをちらりと見て、大袈裟に溜息を吐いた。

「俺は別に階級が上がることを嘆いているんじゃない、それはありがたいとちゃんと思っているさ。
 俺は、貴様と同じ部隊に入る事に対して溜息を吐いているんだ」

ふんと鼻を鳴らしながら皮肉るような口調で、フィアはいう。
いきなりの暴言にルカは驚いて目を見開いた。

「な?! それはどういう意味だよ!」

憤慨するようにルカが叫ぶ。
彼の反応を見たフィアはふん、と鼻で笑って、きっぱりと言い切った。

「言ったままの意味だ。
 貴様の部下として働かされるくらいなら、もう数年間、ノトとして修行していたほうがましだ」

そう答えるとフィアはもう一度溜息を吐いた。
亜麻色の髪をもう一度風が揺らしていく。
ルカはそんなフィアの様子を見て肩を竦め、呟いた。

「……可愛くねぇ奴」

城の一角でこうして会話をしているフィアとルカはディアロ城専属の騎士だ。
所謂”城勤騎士”である。

騎士、と一括りにしても、仕事は様々で、王族の護衛から魔獣の退治まで、幅広い任務を任されている。
そして、彼らが所属する騎士団、ディアロ城騎士団には、特徴の違う五つの部隊が存在している。

攻撃主義の炎豹(フレイム・パンサー)
頭脳派の水兎(アクア・バニー)
潜入任務を得意とする風隼(ウィンディ・ファルコン)
医療部隊である草鹿(グラス・ディア)
そして、フィアが所属することになった総合部隊、雪狼(スノウ・ウルフ)の五つの部隊。
それぞれ得意とする魔法や性格などから割り振られる。

ルカは雪狼のトップ、セラという階級だ。
一つの部隊を束ねるリーダーである。

騎士団の階級は下からノト、アーク、ヴァーチェ、そしてトップのセラ。
騎士の仕事を任せられるのはアークからで、ノトの騎士たちは訓練をして、階級を上げるための試験を受けることで、晴れて一人前の騎士となる。

無論、ただ階級が上がっただけならば特に驚かれはしない。
フィアはこの春、ノトから何と飛び級でヴァーチェに昇進したのだ。
それは、そうないことなのである。



 
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