Knight ― 純白の堕天使 ― U

□第四十六章 救出。そして闇の正体
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第四十六章 救出。そして闇の正体




「……う…」

フィアはゆっくりと目を開けた。
眠っていたのか、流し込まれた悪魔属性の魔力の所為で気を失っていたのか、フィア自身にもよくわからなかった。
ただはっきりしているのは、これが夢ではないということ。
十字架に括りつけられた腕に食い込む縄の痛みが、それを教えている。
ただ、悪魔の魔力による痛みは、少し軽くなっていた。

「俺が、それに慣れたということか……」

フィアはそう呟いた。
魔力に慣れてしまえば、苦痛はあまり感じないはず。
そのことに少なからず安堵したのだけれど……対立するはずの悪魔の魔力に慣れるということが起きて良いことなのか悪いことなのかはわからない。

「やぁ天使さん。元気?」

不意にフィアの真横で声がした。
驚いてそちらを見れば、ふわふわと宙に浮きながら笑っているロシャの姿があって。

「貴様……近寄るな」

敵意を剥き出しにするフィアを見て、ロシャはぶぅ、と頬を膨らませた。
唇を尖らせながら、彼は言う。

「何さぁ。折角退屈してるだろうと思って遊びに来てあげたのに」
「いらない」

フィアがつっけんどんにそう言うと、ロシャは嬉しそうに笑った。

「……イラついてるね。仲間が来てくれないから?」

意地悪く笑いながら、ロシャはフィアの周りを旋回する。
逃げようにも、体が縛られているため、無理だ。
視線を逸らそうとするフィアの顔を覗き込みながら、ロシャは言った。

「君の仲間はきっと来ないよ。
 きっと今頃、僕らに国が攻め落とされないように訓練でもしてるんじゃないかな?」

くすくす、と笑いながらそう言う彼。
悪戯っぽく細められる漆黒の瞳には、冷たい光が灯っている。

「それならそれで、構わない」

フィアは毅然として言った。
彼らの脅しに、彼らの言葉に屈することだけは、したくない。
その一心で。

ロシャは機嫌を損ねることもなく、くすくすと笑って、フィアに言った。

「あぁ、そう。
 でも、そうしたら君は悪魔になって、僕らの手下になるんだよ? わかってる?」
「ならない」

絶対になるものか、とフィアがロシャを睨む。
ロシャはふっと笑って、歌うように言った。

「なるの。君がなりたくなくても、そうなるんだよ。
 僕らの御主人の魔術、凄いんだから。
 ……この魔法陣見ても解るでしょ?」

ロシャはにこりと笑うとフィアの頬を突いた。
彼が手袋をはめていないことに気が付いて身構えたフィアだったが……以前感じたような脱力感は、ない。
そんなフィアを見て、ロシャは小さく口笛を吹いて、言った。

「あ、この程度じゃ怯まなくなったんだ。
 悪魔の魔力に慣れてきたみたいだね。
 それじゃ、ノアール呼んでこようかなぁ」

ロシャはフィアから離れようとして……振り向いた。
そして軽くウィンクをして、言った。

「あ、そうだ。言い忘れてたけど、覚悟しといたほうがいいよ?
 今からノアール連れてきたら、第二段階。
 昨日より強い魔力、君に流してあげるから」

“第二段階”という言葉に、フィアの体が強張る。
嫌でも体が覚えている。
悪魔の魔力を流し込まれたときの、壮絶な痛みを。
無意識に、体が震えた。
その心情を見透かしているのか、ロシャは楽しそうに笑っている。

「やっぱり痛かったんだね。
 ま、少しずつやらないと、君が死んじゃうから。
 折角捕まえた天使を殺しちゃうのはやっぱり勿体ないってノアールも思ってるみたいだ。
 あの時はあんなこと言ったけど、天使ってなかなか見つからないからねぇ……」

じゃあね、というとロシャは姿を消した。

「国を滅ぼす、なんて……絶対に、させない。
 ルカたちがきっと、護ってくれる」

フィアは自分を勇気づけるようにそう呟いた。
そして真っ直ぐに前を見つめ、ロシャ達が戻ってくるのを待っていた。




 
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