Knight ― 純白の堕天使 ― U
□第四十五章 血の契約
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第四十五章 血の契約(ブラッド・コントラクト)
ロシャが姿を消し、フィアはシルヴァと名乗った青年と二人きりになった。
形的には自分を助けてくれた存在ではあるが、敵であることに違いはない。
乱れた呼吸を整えながら、フィアはシルヴァを見据えていた。
「……まったく、あの人も不幸な人だよな」
シルヴァはそう呟いた後、フィアの手首の枷についた鎖を握る。
そして、視線を彼の足元に向けて、小さく息を吐き出した。
「歩かせるわけにはいかないな。
まったく、こんな状態の子をどうやって連れていくんだ」
そうぼやいたシルヴァはひょい、とフィアを抱き上げた。
あまりに迷いなく唐突な彼の行動に、フィアは蒼い目を見開く。
「なっ?! 何をする?!」
下せ! と叫び、フィアは必死で暴れる。
が、シルヴァの華奢な体格の割には力が強く、手枷や足枷があることもあって、フィアはシルヴァから逃げることは出来なかった。
シルヴァはしっかりとフィアを抱いたまま、苦笑する。
「暴れるなって。その手足で歩かせたら日が暮れる。
君にとって最後の三日のうちの一日を処刑台まで歩くことで終わりにしたくないだろ?」
処刑台、という言い方にフィアはびくりと体を震わせた。
怯むまい、恐れるまいと思いはすれど、あの十字架が自分を苦しめるためのものであると自覚してしまえば、流石に恐ろしくもなる。
フィアがおとなしくなったのを確認するとシルヴァは歩き出す。
フィアは反撃を諦めた。
こうして敵に抱きあげられるのは二度目。
そんな屈辱的な状況だが、命を落とせば仲間を待つことすらできなくなってしまう。
殺されないだけ、マシだ。
そう自分自身に言い聞かせながら、彼はきつく唇を噛み締めたのだった。