Knight ― 純白の堕天使 ― U

□第四十四章 翼をもがれた天使
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第四十四章 翼をもがれた天使





自分の過去を話し終えたアンバーは一つ溜息を吐き出して、じっと自分の手を見つめた。

―― 何度、この手を恨んだだろう。

そう思いながら、目を伏せる。

弟の手を解いた、残酷なこの手。
自分を恨む弟を止めることが出来なかった、無力なこの手の所為で……
今の状況も少なからず、自分の行動が原因だ。
そう思いながら、顔を上げたアンバーは仲間たちを見つめた。

「全部、僕が悪いんだ。
 あの時、ハクの手を離さなければ良かったのにね」

そう言って、アンバーはへにゃりと力なく笑う。
彼の声は、微かに震えていた。
そんな彼の感情を自身の能力で感じ取ったアルは眉を下げ、静かな声で問いかける。

「……説得、できなかったんですか?」

その言葉にアンバーは首を横に振った。

「何度も何度も、会おうとした。
 でもハクは、僕に会おうともしてくれなかった。
 今日、あの子に会えたのは……あんな形ででも言葉を交わせたのは、奇跡に近いんだ」

寂しげに、哀しげに、アンバーは言う。
何度も、何度も、彼を探した。
会って話せばわかってもらえるかもしれないと、もしわかってもらえないとしても謝りたいとそう思って、任務の合間に探し続けていた。

それなのにハク、基ロシャに出会うことは出来なかったのだ。
避けられている、逃げられていると、察することは容易だった。
だからこそ、今日、このような形で会うことが出来たのは、少し、嬉しいとさえ思っていた。
尤も、結果としては交渉決裂どころの話ではなかったのだけれど。

仲間たちはそんなアンバーの表情を見ながら、ロシャがアンバーの方を見る度に彼が期待と絶望を綯交ぜにしたような表情をしていたのを思い出した。
ロシャが、”兄さん”と詠んでくれるのを期待しているかのように。

しかし、それは一度も叶うことはなかった。
寧ろロシャは全てでアンバーを拒否しているようにさえ見えた。
それは、アンバーにとってどれほど辛いことだっただろう。
そう思いながら、彼らは言葉を失う。

アンバーは暫し俯いたままだったが、やがて、顔を上げた。
そして、ふわりと笑って、言った。

「……でも、もう今更後悔しても遅いってわかった。
 だから僕は、前に進むよ」

腹を括った、と明るく笑って、決意の籠った声で、アンバーはそう言った。
仲間の顔を一人一人見て、微笑む。

「仲間を、フィア君を、連れ戻しに行こう?」
「勿論!」

騎士たちは互いに笑い合った。
きっと、この危機を乗り越えて見せる、そんな決意を新たにしながら。


 
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