Knight ― 純白の堕天使 ― U
□第四十章 形勢逆転…?
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第四十章 形勢逆転…?
シストとロシャが戦っていたその頃、アンバーとノアールも剣をぶつけ合っていた。
ノアールの突きは鋭い。
アンバーは大振りをすることなく、ノアールの剣を弾き返した。幾度か剣をぶつけたところで、ノアールはふっと息を吐いて、口を開いた。
「流石は一部隊長、だな……簡単に殺させてはくれないか」
「ふふ。水兎だからって甘く見たら駄目だよ」
黒くて長いノアールの剣をアンバーは器用に受け流す。
は、と浅く息を吐いて、アンバーは軽く額を拭う。
それを見て、ノアールは冷たく笑った。
「だが、それはお前本来のスタイルではないだろう。
お前は剣術使いではなく、催眠術師のはず……ロシャの兄だものな?」
漆黒の瞳がアンバーを見据える。
まるで、彼の弱点を見抜こうとするかのように。
アンバーは肩を竦めたあと、笑いながらいった。
「そうだね。君たちのところでもさぞかし役に立ってるでしょう? 僕直伝の、催眠魔術は」
そう。
ロシャは、アンバーの弟なのだ。
アンバー同様に、ロシャも催眠魔術を得意とする。
ロシャはその魔術の応用で、魔獣を操ることができたのだ。
今のこの騒動も、アンバーが教えたという催眠魔術の所為だといっても、過言ではない。
「そうだな……彼奴の能力は、人間の心を壊すのにも、ちょうどいい。
命令に従わない配下の折檻にはもってこいだったな」
残忍に笑って、ノアールはそう言う。
ノアールの言葉に、アンバーは目を見開いた。
「そんな、使い方を……」
「人の心は脆い。壊してしまうことなど、造作ない。
見せしめに一人二人そうしてやれば、他はおとなしく言うことを聞くからな」
ノアールはそう言って、嗤う。
アンバーは苦しげに顔を歪めた。
「そんな、使い方をさせるために僕は、あの魔術を教えたんじゃない……!」
震える声で、アンバーは言う。
ベッドに座って、一生懸命自分の真似をしていた弟を思い出す。
上手く発動しないと言って泣いたり、上手くいったときには花が咲いたように笑ったりしていた、大切な弟。
それを思い出し、唇を噛み締める。
そして、叫ぶようにいった。
「どうして……どうしてあの子を、ハクを蘇らせた?
どうして……そのままに、してやらなかったの?!」
あの子は、そんなことを望んではいなかっただろう。
悲痛なアンバーの声。
それを聞いて、ノアールは嘲笑うように言った。
「さぁな。我が主の考えることはよくわからん。
……ただ、これだけは言える」
ノアールが剣をアンバーの胸を目がけて、突き出した。
アンバーは驚きつつ、瞬時に障壁を張り、それを止める。
ノアールはその隙にアンバーに顔を近づけ、囁くように言った。
「ロシャが、お前の良く知る彼奴に戻ることは、ない」
アンバーの瞳に一瞬灯った、絶望の光。
ノアールはそれを見て、嗤う。
わかりきっていた返答だった。
彼が、ロシャが、善に戻ることはないだろうと。
アンバーも、心の何処かでは理解していた。
彼は、楽しそうにアルに斬り付けていた。
狂気に満ちた瞳で。
自分に向けられた、蔑むような視線。
冷たい言葉。
それを見てしまったから、聞いてしまったから……受け止めざるを得なかった。
もう二度と、彼が昔の彼に、自分がよく知る可愛い弟に戻ることはないという、現実を。
―― ハク……
アンバーは心の中で弟の名を紡ぐ。
今はロシャと名乗り、残忍な光を瞳に宿した、愛しい弟の名を。
アンバーの脳裏に過ぎるのは、幼かった頃の、彼の弟の優しい笑顔。
無邪気な声。
自分を慕い、呼んでくれた、暖かな声。
優しい心。
暖かな感情。
全て、今の彼……ロシャが持っていないものだ。