騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□Last Game ― 終わりと始まりと ― (由月さんのお子様とコラボ)
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Last Game ― 終わりと始まりと ― (由月さんのお子様とコラボ)





本日は十二月三十一日……

魔力の満ちる世界、クルーディットガイアの、クレンシア大陸。

「エルゥ!準備できたー?アンバー来たら、すぐいける?」

金髪を揺らし、わくわくした様子を見せる青年……ロディスは、今か今かというように、迎えの人物を待っている。

まるで子供のように窓の外を見ては、”まだ来ないなぁ”などといっている。

「準備って……ロディ、遠足じゃないんですよ?

 そもそも、アンバーさんのことですから、ドアから入ってくるとは思えないんですが……」

そんな義兄の様子を見て、溜息をついているのは、エルノ。

しかし、彼もまた、今日を楽しみにしていたというのは事実。ちらちらと時計を気にしている。

「……少し落ち着けロディス」

いすに腰掛け、本を開いている黒髪の少年はシャープ。彼の表情はいつもどおり、飄々としている。

その様子を見て、ロディスは頬を膨らませた。

「何だよぅ。シャルも少しくらいうれしそうにしろよ」

「…………」

答えないシャープ。その隣でくすくすと笑う、可愛いらしい少女……ウィロウはさらさらとペンを走らせると、

それをロディスとエルノに見せた。

『シャープも楽しみにしてたみたいだよ。剣の手入れも、いつも以上に念入りにしてたし』

「へぇ……そうなんですか」

エルノがなるほど、という顔をしてうなずく。

シャープは相変わらず表情を変えないが、ウィロウがいうことは、おそらく事実だろう。

今日はその剣の腕を発揮する日でもあるのだから。

「それにしても……遅いなぁ、アンバー」

「遅いって……あのですね、ロディ、まだ約束の時間の十分前ですよ?」

「だって、待ちきれないんだもん」

早く来ないかなぁ……とつぶやくロディス。それをあきれ気味になだめるエルノ。

と、そのとき。

「皆さんご機嫌麗しゅう!!」

ぼすっと音がして、何かが部屋に落ちてきた。

正体はわかりきっていたが、全員ぎょっとした。

無論、落ちてきた物体……基、人間は異世界の騎士、アンバーである。

「……まったく。アンバー、あなたという人は……」

その隣にふわりと着地したのは、翡翠色の瞳を持つ、落ち着いた雰囲気の男性……ジェイド。

彼もまた、異世界で医療担当の騎士をしている。

「あれ?ジェイドさん、あなたもきたんですか?」

きょとんとするエルノ。てっきり、アンバー一人できて、また”あの薬”を飲まされるのだろうと思っていたのである。

その声を聞いて、エルノたちのほうを見ると、ジェイドは微笑んで、答えた。

「お久しぶりです、皆さん。またあの薬で僕たちの世界に来るものだと思っていたようですね。

 しかし、それはやめにしようかと思い、僕が来ました。

 何度も何度も、安全かどうか確信を持てないものを飲むのは嫌でしょう?」

まるでエルノたちの考えをくんだようにジェイドはいう。その言葉に首を傾げるウィロウ。

「……?(じゃあ、どうするんですか?)」

「僕とアンバーがルカとフィアを迎えに来たときのことを覚えていますか?あの時と、同じです。

 こちらの世界も向こうの世界もわかっているので、空間移動ができるんですよ」

笑顔で答えるジェイド。それを見て、ほっとした顔をする、一同。

ジェイドの言ったとおり、アンバーの薬は、本当に安全なのか、疑わしい。

「それで……アンバー、大丈夫か?」

相変わらず床に突っ伏しているアンバーを見て、ロディスが心配そうに訊ねた。

アンバーは答えず、ジェイドが溜息をついて、代わりに答えた。

「大丈夫ですよ。僕が魔術でちょっと動きを制限しているだけなので」

「え」

何故?という顔をする得るのに、にっこりと笑顔を返して、ジェイドは言った。

「あまりに喧しいので、ね。お仕置きですよ。ほうっておくとこの人は騒ぎますから」

「…………(この人を怒らせないほうがいいかもしれない)」

ロディスはひそかに思っていたとか。


「さて、冗談はこの辺にして……アンバー、そろそろいきますよ。無効で、ルカたちも心待ちにしているでしょうから」

アンバーにかけた魔術を解除して、ジェイドが言う。アンバーはジェイドのお仕置きの効果か、幾分落ち着いた様子でうなずいた。

「そうだね。行こうか……あ、そうだ。シャープ君、これ」

思い出した、というようにポン、と手を打つと、アンバーは服の内側から何かを取り出して、シャープに渡した。

「?これは……?」

「剣技大会の参加資格証。胸に付けといてね。

 それがないと、参加できないし、途中でなくしたりしたら、失格になっちゃうから」

「わかった。ありがとう」

不思議な赤色の石のはまったブローチのようなそれは、どうやら大会参加者の証らしい。

「よしっと。じゃあ、行こう!」

「おー!!」

ノリノリなアンバーとロディス。その様子を見て、くすりと笑うと、ジェイドは空間移動の魔法を発動させた。

「あ、言うの忘れてましたけど、着地には十分お気をつけて」

「え?!」

どういう意味?!と、一同が尋ねる前に魔法は発動していて、一瞬でクルーディットガイアから、イリュジアへ飛んでいた。






 
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