騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□桜ノ宴 ― 宵桜ニ酔ヒテ ―(由月さんのお子様とコラボ)
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―― 美しき花の咲くころの宴。

   周りには愛しい仲間たち。そして、異世界の友たち。

   さぁ、今宵は、存分に酔いしれて……





桜ノ宴 ― 宵桜ニ酔ヒテ ―




ここはディアロ城騎士団の棟。そこのある一室での会話……

「……ねぇ、ジェイドー」

参謀部隊、水兎のセラ、アンバーが隣にいる翡翠色の髪の仲間に声をかけた。

右手でペンを持ったまま。どうやら仕事中らしく、机の上には書類の山。

翡翠色の彼は、呆れ顔をして、そちらを見る。

「何ですか、アンバー。さくさく仕事終わらせないと、溜まる一方ですよ」

「それはわかってるよ。わかってるけどさぁ……」

「わかってるならさっさとおやりなさい。

 何のために僕がこうして貴方の部屋にいると思っているのですか。

 貴方がサボらないように見張るためだということをお忘れで?」

ぴしり、と医療部隊、草鹿のセラ、ジェイドが言う。

そう。

アンバーは日ごろちょくちょく仕事を放置して遊びに行ってしまうため(もっぱら、町の散策らしいが)

時折こうして書類処理の仕事を溜め込んでしまうのだ。

そのたび、騎士団の中で一番年上であるジェイドの監視の下に溜まった仕事を片付ける。

もっとも、アンバー一人で終わらせられる量ではないため、ジェイドも手伝う羽目に陥るのだが。

アンバーはむぅ、とむくれる。その様子は、まるで子供のようだ。

「……だってさぁ」

「何ですか?」

場合によっては蹴りますよ、と言わんばかりの笑みを浮かべるジェイドに若干怯みつつ、アンバーはいった。

「外、見てよ」

「外?」

ジェイドは窓の外に目を向ける。

「ほぅ……今年ももうそんな季節なのですね」

窓の外に舞う、薄紅色の花びらを見て、ジェイドは目を細めた。

「でしょ!もう、こんな季節なんだよ!

 こんなに綺麗に咲いてる桜見ながら、部屋の中でお仕事なんて、もったいないと思わないの?ジェイドは」

ほっといたら散っちゃうよ?と力説するアンバーの琥珀の瞳はきらきらと輝いている。

「……アンバー、貴方の魂胆はよくわかりました」

呆れた顔をしているジェイド。そして、アンバーが言おうとしていることを述べた。

「要は、花見をしたいと?」

「そういうこと。できることなら、エルノ君たちを迎えにいって。

 あの子達の国でそういうイベントがあるかないかはわかんないけどさ、

 フィアたちだって、そろそろ会いたいと思ってると思うんだよね。

 だったら、せっかくだし、そういうイベントのときに呼んだほうが……」

「アンバー」

有無を言わせぬ口調でジェイドが呼べば、アンバーは口をつぐんだ。

そして、書類にペンを走らせる。

「……はぁ」

ジェイドは溜息をつくと、机の上においてあったレターセットを手にした。そして、くるりと彼に背を向け、ドアのほうへ向かう。

「……いくつか、条件があります」

「え」

「まずはその仕事を必ず二日以内に半分以下に減らすこと。

 そして、これからこんな目に遭わない様に、サボるのも程々にすること。

 いいですね?」

「え、え?」

困惑しているアンバー。ジェイドはふっと笑って、手元の便箋を揺らした

「それを約束できるなら、僕から手紙を出しておきましょう。

 あちらにも都合があるでしょうし、当日になってから強引に連れ出すのはいただけませんからね」

「!!わかった!ちゃんとやるよ!」

目を輝かせて何度も頷くと、アンバーはやる気を出して仕事に取り掛かった。

そんな仲間を見て苦笑しつつ、ジェイドは部屋を出る。

大きな窓から外を見つつ、つぶやいた。

「まったく。僕も甘いですねぇ……まぁ、でも……桜が綺麗なのは、事実ですし」

そして、手紙を書くべく、自室に戻ろうとして、ふと思い出す。

「もう少し、よらなければならない場所がありましたね……」

にわかに笑みを浮かべると、ジェイドは"彼ら”に会える事を喜ぶであろう人物たちの元へと向かった。










―― 所変わって、ここはクレンシア大陸。


「いてっ?!な、なんか落ちてきた」

しばし休息をとっていたロディスの頭の上に落ちてきた、何か。

頭をさすりつつ、ロディスはそれを拾い上げて、目を丸くした。

見慣れた名前、見慣れた紋章。

本来なら、一切かかわりを持つはずがなかった"彼ら”からの……

ロディスは無意識に微笑んでいた。







「エルゥ!手紙が来たよ!」

パタパタと走って、うれしそうにそれを義弟に見せる。エルノは怪訝そうな顔をして、そちらを見た。

「手紙?誰からですか?」

「ジェイドさんから!」

その言葉に、エルノは驚いた顔をする。そんな彼に、ジェイドから届いた手紙を誇らしげに見せた。

「本当ですね……中は見てないんですか?」

「見てない!だって、せっかくだから皆で見たいじゃん!シャルたちもきてから見ようよ」

「……そうですね」

ロディスらしい提案に微笑み、エルノは頷いた。そして、外に視線をやる。

クルーディットガイアで唯一四季が存在するこの大陸でも、もうすぐ暖かい春が来る。






そんなこんなで、シャープとウィロウも来たところで四人は手紙をあけた。

中にはジェイドらしい文章で大まかに述べれば、こういったことが書いてあった。

アンバーの提案で桜の下で宴会をすることになった。

フィアたちもあいたがっているから、都合があうようであれば、二日後の朝、迎えに来る。

特に特別に必要なものはないから出かけることが出来るようであれば、そのための用意だけしておいてくれとの事。


「へぇ!楽しみだなぁ!!」

ロディスはすでに遠足前の子供のように無邪気な笑みを浮かべている。

「いけない、と返事をする選択肢はないですよ。ねぇ、シャープ?」

一番多忙であろう彼に了承を得るべく、エルノは笑っていった。

「……一日抜けるくらいなら、問題はないだろう」

たぶんな、とシャープが言うと、隣にいる少女も嬉しそうに笑った。

その様子を見れば、彼だって断るような真似はしない……否、できないだろう。

そして、四人はわくわくしつつ、ジェイドの迎えを待ったのだった。



 
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