Knight Another Story ― 天使が守る国 ―

□第四章 与えられるもの
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賑やかな音楽と話し声が響くホール。
奏でられる音楽に乗って、男女が手を取り合って笑い合いながら踊っている。
そんな様子を見つめながら、イオは少し服装を整えた。

こういった場所に来るのは初めてではない。
彼の家……ミラジェリオ家は名家であるために、こういった場所……パーティーなどに行くことはしばしばあるのだ。

昔から親によく連れられて行っていたし、何より騎士になってからも仕事で行くことがあるのだ。
もうとっくにこういった場には慣れている。

今日はまた、特別な仕事だ。
国王直々の依頼。それをこなすために、こうしてパーティー会場に来ているのだ。

誰でも出入りできるオープンなパーティ。
そういえば聞こえはいいが、実際はどんな人間が出入りしていても怪訝に思われないようなパーティ、ということだ。
武器の違法取引がはびこっているというから、このパーティーの形式にも頷ける。

「おや、君は……」

不意に声をかけられて、イオは顔を上げた。
そこでにこやかに微笑んでいるのは、このパーティーの主宰である男性。

ミラジェリオ王国内でも有名な、レーシス家の当主。
今回の任務での、重要参考人だ。

「こんばんは、エリル様」

名前はカンペキだ。
ウォルヴェリア家とも付き合いがある相手だし……
そう思いながらイオは微笑みを浮かべる。

普段は表情の変化があまりない彼なのだが、家柄的にも仕事的にも、表向きの笑顔くらいは浮かべられる。
そしてそれを見破れる人間はいない。
だからこれで十分だ、とイオは思っていた。

「驚いたな、まさかウォルヴェリア家の御曹司である君が来てくれるとは」
「ふふ、正確には少し違いますよ、俺は正当な継承者ではありませんから」

そういって微笑むイオ。
そういえばそうだったか、とエリルはいった。




―― そう。



イオはウォルヴェリア家の跡継ぎではない。
元々ウォルヴェリア家の当主とその妻はそのつもりで、家の前に捨てられていたイオを拾ったらしいのだが、その後夫妻の間に子供が生まれたのだ。

男女の双子。
年下とはいえ、実際に血がつながった子供の方が良いだろう。
イオもそう思って、自ら跡継ぎとしての地位を弟のリクソスに譲ったのだった。

しかしだからといってイオやウォルヴェリア家の評判が落ちることはなかった。
イオはウォルヴェリア家の子ではないが、とても生真面目で勤勉である事で有名だ。
そればかりか、国のトップである国王を守る仕事をしている。
そんな彼は名を上げる要因になれども評判を下げるようなことにはならなかった。

「君の評判は聞いているよ。この間も、犯罪者を捕まえたらしいね」
「えぇ。でもあれは私だけの功績ではなく、仲間の功績でもありますから」

彼はそう応対した。
そんな謙虚さも評判をよくする要因の一つだった。

しかし今はそんなことをしているだけではいけない。
"釣り"をしなくては。
そう思いながらイオはふっと息を吐き出して、言った。

「しかし剣がなかなか扱いにくくて……
 別の武器を持てればよいのですが、それが許可されないのですよ」

不便なことです。
そういってイオは困ったような顔をする。
蒼い瞳で相手の様子を窺いながら。

彼の発言に、エリルはすぅっと目を細めた。
そして小さな声で"そうなのか"と呟くように言う。




―― あと一押しか。




そう思いながら、イオはもう一度口を開いた。

「今日も武器はおいてきているのですよ……
 あんな大きな武器では持ち歩いていて危険ですし邪魔にもなりますしね」

もっと小型で扱いやすい武器が欲しいものです。
例えば、銃とか短剣とか。
イオがそういうと、彼は笑みをうかべた。

「そうか……」

少し悩むような表情だったエリルが笑みをうかべている。
その瞳はまるで、獲物を見つけた獣のようだった。




 
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