Knight SS
□最高の相棒
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― さて、共に行きますか ―
「おーい、フィア、何処だ?」
イリュジアの城、ディアロ城に響く声。
長い紫色の髪を揺らし、少年……シストは歩いていた。
どうやら、彼のパートナーを探している様子。
きっちりと腰に差した剣に手をかけているところを見ると、どうやら任務らしい。
「何だ」
澄んだその声の持ち主は、五月蠅そうにパートナーを見る。
「あ、いた」
シストが呟くと、フィアは溜息をついた。
「探してから呼んでくれ……」
げんなりした様子でつぶやくフィア。シストは悪い悪い、と笑った。
「で?何の用事だ」
「仕事だってさ。今日は二人で行けってルカが」
「そうか……わかった」
すぐに行こう、と言ってフィアは腰につけた剣を確認した。
騎士としての誇り、魔術剣。
「…………」
シストは無言でそれを見つめた。
「……?なんだ」
自分の様子を見つめるパートナーを見て、フィアは怪訝そうな顔をした。
シストははっとして首を振る。
「否、やっぱり俺の剣とは違うな、って」
改めてそんなことを言うシストに、フィアはおかしそうに笑う。
自分の剣をそっと撫でて、言った。
「何を言うかと思ったら。魔術剣は人それぞれの魔力を宿す……
俺とお前の剣が異なるのは、当然だろう」
「いや、まぁ……そうなんだけどな」
ぽり、と頬を掻いて、シストは笑った。
「お前の剣が、あまりにお前らしいから」
「は?」
フィアはきょとんとする。
シストはフィアの剣を指差しながら、言った。
「細身で軽くて鋭い。……まさしくお前じゃん?」
シストは知っている。
フィアがひどく華奢で、軽いこと。
初めて二人で行った任務で傷を負い、倒れたフィアを背負って帰ったのだから。
その時に、知った。
自分のパートナーの、大切さを。
忘れかけていた、否……忘れようとしていた恐怖も。
自分の過失で失ったかつてのパートナー。
その面影を引きずるが故に、新しいパートナーを探せずにいたシスト。
怖かった。
失うことも、傷つけることも。
だから。
もう二度と、失わないようにと……一人を、選んだ。
一人で戦うことが辛い事はすぐに分かった。
でも、それで構わないと、自分に言い聞かせた。
"それが最善だ"と。
どれだけ辛くても、苦しくても、一人で。
頼る相手がいないから、一人でやりきるほかなかった。
それでいいんだ、と思っていた。
いや、思おうとしていた。
でも。
失いたくないと思えるパートナーに出会えた。
ルカに言われ、付いていくことになったフィアの初任務。
その日のことはシストの記憶に強く焼き付いている。
一緒に任務に行くことになった、とフィアに伝えようと部屋に行ったとき、フィアが着替えていて、悲鳴をあげられて驚いたこと。
女性らしいという発言に笑っていたら思いきり足を踏まれたこと。
楽しそうに依頼者と踊るフィアの姿。
肩を射られてもなお、走り続けていたフィアの姿。
自分に痛みを悟られまいと懸命に走り続けていた彼の心情に気付けなかった己の未熟ささえも。
かつてのパートナー……エルドを失った傷は、一生癒えない。
忘れることなんて、できるはずがなかった。
フィアが倒れた時。
その記憶が鮮明に蘇って……苦しかった。
悲しかった。怖かった。
―― 失うことが。
目を覚まし、いつものように笑うフィアを見ても、どうしても安心できなくて。
ちらつくのは、大切な相棒の最期の姿。
"大切なパートナーを守って死ねるなら……"と、笑って逝った、愛おしい相棒の姿。
その悲しみの影で曇る瞳に、フィアは気づいた。
気付いてくれた彼に自分の過去を話した。
その過去を聞いたフィアは、シストを叱咤した。
"今お前がすべきことはなんだ"と。
フィアの、サファイアの瞳にともされた強い光。
それは、他の騎士にはない鋭さを持っていた。
油断も、怠惰も、微塵も感じられない、強く優しい光。
その光に、惹かれた。
だから、受け入れたのだろう。
もう一度、パートナーを得ることを……
今、フィアの剣を見ていてそれらのことをふと思い出した。
そして、気づいたのだ。
―― 魔術剣とその持ち主は写し鏡のようなもの……本当だな。
「……バカげたことばかり言ってないで、さっさと準備しろ」
呆れたようにつぶやくと、フィアはシストの額を小突いた。
シストは小突かれた額をさする。
「……行くぞ」
「おう!」
― さて、共に行きますか Fin ―
さぁ、スタートしましたお題小説。
なかなか難しいお題もありますが、精一杯頑張りますよ!
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!