騎士たちの集会所(Knight 短編小説)
□精霊と麗竜 ― ハジマリの時 ―
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「……あのさ」
「はい?」
ちらり、とジェイドの腕を見る。
痛々しい、火傷の痕。
もし、ジェイドが庇ってくれなかったら、俺が負っていただろう……否、俺があれを食らっていたら、死んでいたかもしれない。
「…………」
謝罪と、感謝と。
どちらの言葉を先に言うべきか、と悩んだ。
俺が言葉を発しないことを不思議に思ったのか、ジェイドは首をかしげた。
そのあと、俺の視線の先……つまるところ、自分の腕を見て、小さく笑った。
「大丈夫ですよ。この程度の火傷なら、すぐに治りますし」
平気です、と笑って見せたその顔が、気に入らなくて。
俺は、グイッとジェイドの腕をつかんだ。火傷してる方の腕を。
「っ!」
一瞬、ほんの一瞬だけど、ジェイドの顔が痛みで歪んだ。
「……そういうところが気に入らないって言ってんだ」
「……?」
理解できない、という顔をするジェイドに、俺は言った。
自分自身の中で、結論が出た。
何で俺が、ジェイドのこと嫌いだと思ったのか。
―― 本心が、見えないからだ。
いつも笑ってる。いつも、優しい。
そんな彼の、本心は見えなかった。
笑顔の裏にある苦しみとか、悲しみとか辛さとか。
絶対にあるはずのそれを、一切感じられない。
それが、酷く気に食わなかったんだ。
―― 仲間、だろう?
仲間、なんだから。
弱みを見せてくれたっていいじゃないか。
それさえも隠して見せる、あいつが気に食わなかった。
いつも笑ってる。でもその笑顔は、心からの笑顔に見えなくて。
いつも仲間と一緒にいるくせに、なぜか孤独に見えるあいつが。
そんなアイツが、気に食わなかった。
……そんなの、俺の我儘やエゴ以外の何物でもなかったんだけど。
「……ありがとうございます」
「え?」
今度は俺が驚く番だった。
何で、礼を言われてるんだ、俺は。
「何で……」
素直に訊ねれば、ジェイドは少し困ったような顔をして、俺から目を逸らした。
「いえ……貴方のような反応をしてくださる方は、いなかったので。
……いつから、気づいていました?」
「お前が、本気で笑ってないってことに?」
「はい」
何時、と言われても。
「……無意識。お前を初めて見た時からいけ好かないやつだとは思ってた」
「そう、ですか……ふふっ。最初に貴方と喧嘩になってしまった理由もそれかも知れませんね」
おかしそうに笑うジェイドにつられて、俺も笑っていた。
思えば、それが笑いあったのは初めてで。
ついでに、ジェイドが俺の前で本気で笑ってるのを見たのも、初めてで。
おかしかった。
でも、あんなふうに親しくなった俺たちだからこそ、最高のパートナーになれたのかもしれないな。
?なんだ。不思議そうな顔だな。
俺とジェイドはもともとパートナー同士だよ。
草鹿と炎豹の騎士でも、パートナーを組む。
ジェイドの方から、いってきたんだ。"僕のパートナーになってくれませんか?"って。
珍しいと思わないか?あいつから何か行動を起こすこと。
でも、俺は純粋にうれしかったよ。
あんなふうに一生懸命仕事ができる奴と組めること。
まぁ、騎士団内唯一の飛び道具使いだし、若干苦労したこともあったけど……
互いにセラになるまでずっと、一緒に任務こなしてたんだ……