騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□精霊と麗竜 ― ハジマリの時 ―
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防御なしの戦いは若干きつかったけど、これでも部隊内トップクラスの実力を持っていた俺だ。

何とか、あと一歩で竜を仕留められる、ってところまで持っていった。

それで、ちょっと気が緩んだんだろうな。

一瞬、意識が脇にそれた。

その時。

「!アレクッ!」

不意に名前を呼ばれた。

今まで、名前を呼ばれたことも呼んだこともない。

寧ろ、あいつが俺の名前を知っていたことに驚いた。

振り向けばそこに、迫る竜の炎。炎越しに見えるのは、ジェイドの驚いた表情。

その炎の勢い、凄まじくてな。

避けることもできそうになかったし、普通に受けたら、死ぬなぁ、って思った。





―― 怪我で、済めばいいんだがな。




妙に呑気にそんなことを考えてたよ、俺は。

一応炎から、身体を守ろうとする構えにはいった。

無駄だろうな、って思いながら。

何処まで防げるかわかったものではないが、抵抗もせずに死んだのでは戦闘部隊の名折れだ、と思ってさ……

炎越しに見えたジェイドの顔は、今でも忘れられねぇよ。










―― ……?


おかしい、炎が来ない。そう思った。

「何、諦めてる、んですか……」

聞こえたのは、苦しげな声で。

反射的に目を閉じてしまったことに気付いた。

慌てて目を開ければ、そこには。

「お前……っ!?」

魔術と、弓と、腕で俺を炎からかばっているジェイドの姿。

とっさに障壁を張ったらしいが、やはり少しは炎の影響を受け、火傷を負っている。

なんて無茶なことを。

怒りと焦りが綯交ぜになったような感情のまま、俺は怒鳴った。

「何してんだテメェ……?!」

「何って……草鹿の、騎士として……」

キョトンとするジェイドの背後に迫る竜。

俺は舌打ちして、ジェイドを突き飛ばした。

そのまま、剣を振るう。

一太刀で、竜の喉元を切り裂く。

それまでは出来なかった所業だったけど、人間死ぬ気になれば何でもできるもんだ。

さっさと任務片付けて、奴を問い詰めたかった。

降りかかる竜の血と、倒れる身体からジェイドをかばって、離れた。

敵が息絶えたのを確認してから、俺はジェイドに訊ねた。

「何で、俺を守ってくれたんだよ」

手を出すな、といったのに。

可愛げなく俺がそういえば、ジェイドが決まり悪そうに目を逸らした。

「……悪いとは、思ってますよ。一度ならず二度までも、戦闘重視の貴方の考えを否定してしまう形になったこと。

 しかし、ですね。

 僕だって、一応騎士なんです。草鹿の、騎士なのですよ。

 草鹿の騎士は、命を賭してでも仲間を、相棒(パートナー)を守るのが使命。

 たとえ、相手がそれを望んでいなかったとしても……そうあるべきだと。先刻気づいたのです。

 ……酷く幼稚な言動した挙句、貴方の戦闘スタイルを無視した結果になったことは謝ります。でも……」

俺の方見て、ジェイドは……笑った。

「貴方に大きなけがを負わせずに済んだ。この結果だけは、誇らせていただきます」

きっぱりとそういったジェイドの瞳は、すごくまっすぐだった。



―― あぁ、こいつは。




中途半端な覚悟で騎士になったんじゃないんだ、といまさらのように思った。

炎豹の喧嘩に首を突っ込んだのも、その時みたいに無茶をしたのも、全部全部。

アイツなりの信念を貫いた結果だったんだ。

それに、ようやく気付いた。



 
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