騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□Knightお題小説 ― 君に、想いを ―
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お兄ちゃんとして。






いつものように、フィアは自室で本を読んでいた。

今日は訓練もない。

することもないし、他の部隊は訓練中。

仕方ない、本でも読むか、と自室にこもっているのである。





と、不意にドアがノックされる。

他の部隊はまだ訓練中のはずなのにな……と思いつつ、返事をする。

「どうぞ」

「入るぜー」

そういって部屋に入ってきたのは、アネットだった。

フィアは意外そうな顔をする。

「アネット?お前、まだ訓練中じゃ……」

「あぁ、いや?今日まで休暇取ってんの。昨日まで故郷に行ってたんだ」

そういって、アネットはにかっと笑う。

フィアは納得した顔をして頷いた。

最近は割と平和で、休みを取ろうと思えばとれる。

忙しい時期は望んでも休みが取れないのだが……

アネットは、普段あまり里帰りをしない。

久しぶりに帰って、家族に顔でも見せに行って来たのだろう。

「そういうことか……それにしても、どうした?お前が俺の部屋に来るのは珍しいな」

アネットがフィアの部屋に来ることはまれだ。

フィアが言うと、アネットはふと真剣な顔をした。

「なぁ、フィア。裁縫ってできる?」

不意にそう声をかけてきた赤い髪の少年を、フィアは驚いた顔をして見つめた。

「出来ることは出来るが……」

男として騎士になったとはいえ、フィアはもともと女。

裁縫も料理も、一通り、母親やルカの母、つまり叔母であるイブに教えてもらっている。

しかし……

「いきなりどうした?」

「教えて、くれねぇ?」

「は……?」

フィアはなお驚いた顔をする。

普段のアネットの様子を見る限り、裁縫なんかに手を出しそうには見えない。

寧ろ。細かい作業は苦手なはずだ。

だから、フィアはアネットに尋ねた。

「いきなり、どうした?どこかに頭でも打ったか?」

「失礼なことを……これだよ、これ」

むっとした顔をして、アネットは何かを突き出した。

フィアはそれを見る。

アネットが差し出したのは、テディベアだった。

子供がよく持っているような、アレだ。

ただ、一つおかしなところがあるとすれば……

「目が、片方……」

「そう。取れちまったんだってさ」

そういって、アネットはポケットからテディベアの目であろう黒いボタンを取り出した。

「……妹さんのか?」

「そう。マリンの宝物」

「……なおして、やろうか?」

フィアがそう申し出たが、アネットはゆっくりと首を振った。

「いいんだ。俺が自分で直してやりたい」

アネットの瞳は真剣だった。

フィアは、何度か瞬きをする。


―― 本当に、仲がいいんだな……


そう思い、微かに笑みを浮かべた。

アネットが騎士になった理由。それは、彼の妹……マリンに素敵な世界を見せたいから。

それほどまでに思う大切な妹のテディベア。

自分で直してやりたいという、兄心にフィアは無意識のうちに微笑みを浮かべていた。





「……そうか」

フィアは頷いて、裁縫箱を取り出した。

「とりあえず、針に糸を通すところから始めてくれ」



それから、アネットが針を指に刺したり、ボタンのつけ方を知らなかったりといくつか波乱はあったものの……



「出来た!!」

「よし。上出来だろう……」


片目のとれたテディベアに再び二つの瞳が光る。

アネットはうれしそうにそのテディベアを抱きしめた。

ほんの一瞬、顔も知らない彼の妹の笑顔が重なって見えた気がした。










お兄ちゃんとして。 ― 片目の取れたテディベア ―



フィアとアネットでしたー。

アネットはいいお兄ちゃんです。マリンのことが大好きです。

きっとこの後、なおしたテディベアを連れて家へダッシュ。

フィアは呆れた顔をしつつ、それを見送るんだろうな、と思いつつ……




 
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