騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□Partner
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―― 二年前のあの日。




部屋のドアをノックする音に、ルカは振り向いた。

誰なのかは、わかっていた。その日、任務に赴いたのは、シストとエルドだけだったから。





「お帰り、シスト、エルド、遅かった……?!」

振り向いたルカは、目を見開いた。

シストの白い騎士服が、赤黒く染まっていたからだ。

怪我をしているのかと、思った。

だから、あわてて彼に駆け寄った。




うつむいたままのシストの肩をつかみ、揺らす。

「どうしたシスト?!怪我したならすぐにジェイドの……!」

シストはゆっくりと首を振った。



「―― ……」

「え……」



口を開いたシスト。しかし、その口から声が出ることはなかった。



―― 心因性の、失声……?


シストは、自分の声が出ていないことにさえ、気づいていないようだった。

ルカは、必死にシストの口の動きを目で追った。



―― ルカ。エルドが死んだ。


「!」

その言葉に、目を見開いた。

確かに、シストの隣にいるはずの、エメラルドの瞳の少年が、いない。

続けて、シストから発された言葉に、ルカはさらに驚くことになる。



―― 俺の、所為なんだ。



「シストの……?」

どういう意味だ?

ルカが訊ねるのと、シストの紫の瞳が涙で揺らぐのは、同時だった。



―― 俺が、エルドを殺した……!



「シスト……?」



―― 俺さえ、いなければ……!



シストはその場に座り込んだ。

でない声で、泣き叫んだ。






ごめん。ごめん、ごめん。

俺が油断したから。俺が、敵に背を向けたから。

それを庇ったばかりに、エルドは死んだ。

俺さえいなければよかった。

俺がいたから、お前が死んだ。

俺が、俺が……!





「シスト、落ち着け……!」

ルカが何度呼んでも、シストが落ち着くことはなかった。

叫んで、叫んで、謝り続けた。

泣いて、泣いて、悔やみ続けた。

ただ、ひたすらに……出ない声で、いなくなったパートナーの名を呼んだ。

そうすれば、彼に届くと、そう信じているかのように。



「シスト……大丈夫だ。お前のせいじゃない……事故だ。事故だったんだろ……!

 お前だけでも、帰ってきてくれてよかった……!」



ルカの言葉は、届かない。

シストは、ただひたすらに、泣きながら謝り続けた。

もういない、パートナーに……




 
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