騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□黒×白 ― 貴方に永久の忠誠を… ―
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「……お前、名は……?」

部屋へ向かう廊下を歩きながら、ノアールはその少年に尋ねた。

まだ服を持たない彼にスーツの上着を乱暴にかぶせて、ノアールは少年の先を歩く。

広い歩幅において行かれそうになりながら、容姿十歳ほどの少年は必死に歩く。

そして、答えた。

「名は、ありません」


―― 失敗作として、処分されるところだったから。



その言葉は飲み込んで。



すると、ノアールは振り向き、少年を見た。

漆黒の瞳が、少年を見つめる。

「……ブランシュ」

「え……」

「お前の、名だ」

「!!」

ノアールはくるりと彼に背を向け、再び歩き始めた。


―― ブランシュ。


それが、少年に与えられた名前。




彼にとって誰かに、何かをもらうなんて、初めての経験だった。

生まれてからずっと孤児院育ち。

名前など与えられない、"お前"や"アンタ"と呼ばれ、ひどい環境の中、育った。

こんな生活嫌だと、孤児院を逃げ出したのは、五歳の時で。

生きていた間も、彼はずっと一人で。

飢えに、渇きに、苦しみ、時に盗みを働いて、なんとかその日その日をしのいで生きて。

一人で、ずっと……ずっと、生きてきた。

そして死んだ時。

彼の死を悼む者はいなかった。

たった一人で生きて、たった一人で死んだ。

彼の心に残った感情は……"孤独"。



―― さびしかった。




誰にも、必要とされないこと。

誰ともかかわれないこと。

ずっと、ずっと……





だからこそ。

"使える"と、そういって。

自分を連れだしてくれた男にブランシュは感謝した。

……喜んだ。

彼に、必要とされたことを。





「……行くぞ、ブランシュ」

「あ……はい……えと、貴方の名前は……?」

「……ノアール、だ」

「ノアール……さん」

確かめるように、彼の名を呼んで。

歩き出したノアールの後を、ブランは追った。




 
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