騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□Lost… ― 記憶 ―
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―― 苦しい。


そう伝えれば、顔を上げる、彼。

彼の瞳は、涙に潤んでいて。

どうして、君が泣いているの?

どうして、そんな顔をするの?

どうして、どうして……?




何もわからないのに。わからないはずなのに。

何故だろう。

涙が、零れて、止まらない。

胸が、ズキズキと痛む。

苦しい、苦しいよ。


―― 嗚呼。


僕は、この痛みを知っている……?






涙が溢れて零れて、落ちる。

フィアも泣いていた。

綺麗な蒼い瞳から、綺麗な涙をこぼして。

どうして泣くの?

どうして謝るの?

わからない。

何も覚えてない。

それが、もどかしくて。






―― 泣きながら、眠っていたらしい。


ふと目を覚ませば、フィアを抱き上げている、翡翠色のヒト。

無意識に、その服の裾を掴んだ。

驚いた顔で、彼は問う。

フィアと一緒にいたいのか、と。

わからない。何もわからない。だけど。

たぶん、一緒にいたいんだ。

取り戻したいんだ。

彼との、記憶。自分の記憶。

そう思うのは、彼の涙が、あまりに暖かかったから。

彼が泣いていた理由が、きっと僕の所為だから。



ジェイドさん、が簡易ベッドを置いてくれて、フィアをそこに寝かせてくれる。

閉じられた目は、物憂い。

さらさらした亜麻色の髪の毛をそっとすく。

「ごめんね」

謝る。

フィアは、僕のために泣いてくれた。

僕が、彼を泣かせてしまった。

だから、僕は謝る。






泣かせてしまってごめん。

僕、必ず思いだすから。

だから。


―― 少しだけ、待ってて。


そんな誓いを込めて、僕はそっと彼の手を握った。





 
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