騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□Lost… ― 記憶 ―
4ページ/13ページ


泣いていることがばれないように、顔をうつむかせたまま、フィアはアルを撫でていた。

「……フィア」

不意に、アルがフィアの名を呼ぶ。顔を上げずに、フィアは問い返した。

「なんだ?」

アルは暫く口をつぐみ、悩むような顔をした。

そして、顔を上げていった。

「……僕、やっぱりおかしいのかも」

「え?!」

アルの言葉に、フィアは反射的に顔を上げる。

アルは、ベッドの上に座って、胸の辺りを握っていた。

「苦しい」

「だ、大丈夫……――?!」

そして、気付く。



―― アルの頬を伝って落ちる、涙。



「アル……?」

驚いた顔をするフィア。

アルは首を振りながら、言う。

「わかんない、わかんない、けど……っ苦しい……どうして?」

どうして、どうして。

言葉がそう紡ぐ間も、アルの涙は止まらない。

……フィアの頬を伝う涙も、止まらない。


―― 嗚呼……アルは、俺の感情(キモチ)を感じて……


アルがもつ"精神共鳴"の能力(チカラ)。

それによって、フィアの"悲しい"、という感情は痛みに変わり、アルを苦しめる。

それは、アルがフィアの親友であり、フィアがアルの親友であるから。

つまり。



―― 記憶をなくした、今も。



自分を、親友だと、認識してくれているのか。

そのことを、心の奥では、忘れずにいてくれているのか。

そう思うと、なおさら涙は止まらなくて。



―― 思い出して、欲しい。



「ごめ……っごめん、アル……っ」

フィアは泣く。サファイアブルーの瞳から、とめどなく零れる雫。

「何で、何で謝るの……?」

不思議そうな顔をして、アルはフィアをみる。トパーズイエローの瞳から、零れ落ちる涙。

フィアはぼろぼろと涙をこぼした。

男として、騎士団に入ったいまとなっては、めそめそと泣くわけには行かないと、いつもこらえていた涙。

しかし、限界だった。

一度決壊してしまった何か。

とめどなく流れる涙を止めるすべはなく。



―― 二人で、泣き続けた。






 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ