騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□Lost… ― 記憶 ―
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フィアは暫く廊下に佇んでいた。

自分をはたいた、アルの魔力。

「……」

はたかれた、自分の手を見る。

その瞳は悲しげに揺らいでいた。

と、そのとき。ドアが開いて、ジェイドが顔を出した。

「フィア、いいですよ。部屋にはいっても。ただ……」

「大丈夫。大体、事態は理解しました……」

フィアは小さくうなずくと、病室に入った。

入れ替わりに、ジェイドは部屋を出て行った。二人きりにしてやろうと思ったらしい。






黄色の瞳が、フィアを捉える。

フィアは、親友の傍に座った。

「……フィア」

「!」

「……ごめん。やっぱり、僕……覚えて、ないみたい」

一瞬フィアが期待した顔をしたためだろう。アルは申し訳なさそうに言った。

フィアは、"そうか……"と呟いて彼の頭に手を伸ばしかけて、とめた。

「……大丈夫だよ。さっきは、ごめんね」

もう攻撃しない、という意味合いだろう。

アルは、困ったように笑っていた。

声は、瞳は、すべてもとのアルなのに。



―― 別人みたいだ。



口調が違う。

言葉が違う。

向けられる視線が、ちょっとしたしぐさが、雰囲気が。

アルなのに、アルじゃない。

フィアは、それが悲しかった。




そんな思いを打ち消そうとするかのように,深く息をすって,フィアは言った。

「……大丈夫か?」

「え?何が」

きょとんとする、アルの様子にフィアは溜息をひとつ。

「お前、魔術かけられたんだろう?ほかは、なんともないのか」

「え?あ、うん。純粋に、記憶なくなっちゃっただけ……だけ、って言っていいのかは、わからないけど」

苦笑気味に、アルが言う。

フィアはほっとしたように笑った。

「そうか……よかった。

 それにしても……アルらしいよ。子供庇って魔術かけられるなんて」

今度は、躊躇いなくアルの頭を撫でる、フィア。

思い出して、とそう祈るように。

「僕らしい?」

「あぁ、お前らしい」

「僕って、どんな子なの」

「……泣き虫」

きっぱりと言い切ったフィアに、アルが不服そうな顔をする。

フィアはふっと笑って、付け加えた。

「でも、優しくて勇敢ないい子だ」

「……照れるから、やめて」

顔を赤くして、布団にもぐるアル。

その様子を見て、フィアはくすくすと笑った。

その声を聞いて、アルは布団から少し顔をだす。

「君のほうがよっぽど可愛いみたいだけどね。容姿も容姿だし……女の子みたいだ」

「!あ、そうか……」


―― この状態だと、俺が男だってことも忘れてるな。


「?」

「いや、気にするな」

「??まぁ、いいや」

フィアはアルの白い髪をくしゃくしゃと撫でる。

次第に、その視界が歪んだ。




 
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