騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□Lost…― Voice ― 
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シストはうっすらと目をあけた。

「……」

彼の紫の瞳に映ったのは、心配そうに自分を覗き込む、サファイア色の瞳。

「シスト!……全く……心配したんだぞ」

ほっとした様子のパートナーを見て、シストはごめん、といった。


―― いや。


言った、"つもり"だった。

「?シスト?」

フィアは、怪訝そうな声をだす。

シストは、目を見開いて、パクパクと口を動かした。

「……まさか、とは思うけど……声が、出ないのか?」

フィアの問いかけに、頷いてシストは身体を起こした。

それを見てか、あわてた声がもうひとつ。

「シストさん!無理して起きなくていいですよ!?」

フィアの影になっていたのだが、小さな白い魔術医がシストの肩に手を乗せる。

しかし、シストは首を振った。

そして、口の動きで"かくもの"という。

アルは手近にあったメモ帳とペンをシストにわたす。

『フィアは大丈夫だったか?』

「……なにを聞くかと思ったら」

フィアは脱力した様子で、シストの額を小突いた。

「俺は平気だよ……お前のほうが、大丈夫か?」

『俺は外傷はないはずだ。だろう?』

シストはメモをアルに見せて、言う。

アルは難しい顔をして、小さく頷いた。

「確かに、シストさんはあまり傷はなかったですね……

 でも、倒れたのは事実です。もう暫く、眠っていたほうがいいんじゃありませんか?」

言うが早いか、アルはシストの額に手を当て、魔力を送り込む。

とたんに、シストは意識を失うように、眠ってしまった。





「……アル」

「やっぱり、予想通りだったね……外傷がないのに、気を失うなんておかしいからさ」

アルはそっとシストの身体に布団をかけながら溜息をついた。

シストの現在の状況を把握するために、いったん起こしただけなのである。

アルの言葉をきいて、フィアは小さくうつむく。

「フィアに聞いた話と総合して考えるに……シストさん、昔のことを思い出したんじゃないかなぁ?

 そういうののフラッシュバックって、怖いんだよ。

 恐怖の記憶って、ちょっとしたきっかけでよみがえって、予想もつかないような症状を引き起こしちゃうんだ。

 今回の、シストさんの失声も心理的なものが原因だと思う」

「そうか……」

シストの長い紫の髪を漉き、フィアは溜息をついた。



―― 自分がもう少し早く気付けば。否、それ以前に、相手が狼の魔獣だとしっていたら。



シストに、こんな思いをさせずにすんだだろうに、とフィアは思っていた。

アルはそんなフィアに微笑み、言う。

「フィア、大丈夫だよ。少ししたら、きっと声も戻るよ……心理的なものだから、いつと明言できないんだけどね……」

「……大丈夫かな。こいつ、精神的に脆いところあるから、心配なんだけど……」

眠るパートナーを見て、フィアは小さく呟いた。



 
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