騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□Knight ― 純白の堕天使 ― お題小説(お題提供:あにょ様)
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(Knight本編完結後のお話です)





Side シスト




―― あの時、俺は何を思っただろう。


いまだに、鮮明に覚えている。

美しい、純白の翼を持った、俺のパートナーの姿。

彼が……フィアが女だったということも、あの時知った。

確かに、もともと中性的な容姿ではあったし、リアクションが女っぽいところもあったし、

だけど、それでもやっぱり驚いたな。





しかも、ただの女の子じゃなかった。

大きな白い翼は、あいつによく似合っていた。

亜麻色の髪を風に揺らし、優しい蒼い瞳で俺たちを見ていた。



―― 天使。



その言葉がぴったり似合っていて。

全然、違和感なんてなくて。

むしろ、似合いすぎていて怖かった。

そのまま、消えてしまいそうで。

手を伸ばしたいけれど、俺の身体はあいつの魔術で固定されていて、動けなかった。

ただ、見ていることしかできなかった。




申し訳なさそうに微笑んだ、天使の姿のフィアは、兄の腕をつかんで、白い魔力を放った。



一面が白い光に包まれて。



それが消えたとき、フィアの姿も消えていた。




そのときの、俺は何を思っただろう?

あいつに守られて、何もできなかった弱い自分。

傷の痛みなんか、とっくに消えうせていた。

それより、ずきずきと痛んだのは、胸のほう。


―― 無力感?虚無感?絶望?


そんな甘っちょろいもんじゃない。

辛くて、悲しくて、苦しくて。

目の前におきている現実すべてを否定したくなった。




一度ならず、二度までも。

大切なパートナーを目の前で失うなんて、思ってもなかった。

想像してもいなかった。

想像したくなかった。



泣き虫の俺は、泣いた。

白い雪が舞う中で。静かに涙をこぼすことしかできなくて。

天使の少女を、思うことしかできなかった。







それから、しばらくたって。

天使は、かえって来た。

そのときの驚きは、喜びは、あらわすことなんてできない。

だって。だって。


―― 二度と逢えないと思っていたんだ。


そんな相手にあえたら、喜ぶだろう?




俺は、もう一度フィアと、パートナーになった。

はじめ、あいつは拒んだけれど、俺はそれを許さなかった。

昔、あいつが俺に言った言葉をそのまま返してやった。



もう一度、パートナーとして働くようになったとき、俺は自分自身に強く誓った。




―― 今度こそは。守り抜いてみせる。




パートナーを守りたいという願いは、ずっと昔……エルドを失ったときからの誓いだけれど、それだけじゃない。

あまりに情けないだろ?

女ひとり守りぬくことができないなんてさ。

フィアは、強がっていてもやっぱり女なんだ。

男女差別?そんなのするつもりはない。

事実、フィアは俺なんかよりよっぽど強いしな。

でも、さ。



―― 守って、やりたいじゃん?






「シスト!任務だ、行くぞ!」

「あぁ!」

ほら、こうして勇ましく言ってのける"天使だった女の子"のことをさ。




天使だった女の子




シスト視点で書いて見ました。シストは強そうで脆い人。繊細な人です。色々考えています。

フィアを女性として意識しているわけではないけれど、

"騎士"として、"男"として、そして、"パートナー"としてフィアを守ってあげたいと思っているんだよ、というお話にしたかった。




 
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