騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□Knight ― 純白の堕天使 ― お題小説(お題提供:あにょ様)
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(Knight本編完結後のお話です)






Side アル




フィアがこのお城に戻ってきて、数週間がたった。



―― あの日、あの時。



僕は、フィアがいなくなって、大きなショックと絶望を味わった。

もう二度とあえない。

もう二度と、話せない。


―― もう二度と……



そう思うと悲しくて、切なくて、涙がこぼれたのを覚えてる。

でも、泣くわけにもいかなかった。

辛いのは僕じゃない。フィアの従兄である、ルカ様だとわかっていたから。

シストさんも、アネットさんも、ジェイド様や、ほかのセラの人たちも、皆悲しそうな顔をしていた。

それだけ、フィアが大きな存在だったんだって、いなくなって、改めて感じたんだ。

僕たちだけの、大切な天使。

僕らを守って、消えた天使。

彼に会うことは、もうできないと、あきらめていた。

だけど……

「アル、行くぞ」

今、こうして、フィアは僕の隣にいる。

今日だって、僕の薬草摘みを手伝ってくれるって、フィアがいってくれたんだ。





「……ねぇ、フィアー」

「何だ?」

もう、男の子のフリをする必要は、ないのだけれど、"こっちのほうが自分らしいのだ"といって、

フィアは今までどおりの口調、生活をしている。

「……なんでもなーい」

「?何だよ。変なアル」

僕をみて、フィアはくすりと笑った。

一つ一つの動作が、綺麗だ。

……消えてしまいそうなほどに。

だから、たまにこうして呼びたくなる。

「……フィア」

「何だよ。今度なんでもないっていったら怒るぞ?」

「……フィアは、もう僕たちの前からいなくならないよね」

僕の問いかけに、フィアが目を見開く。

そして、ひとつ息をつくと、そっと僕の頭を撫でた。

「どこに行けというんだ?天使の仲間に拒絶されたというのに」

「……だって」

そう、フィアは悪魔の魔力も身体に宿してしまった。

そのことから、聖天使になることができず、"堕天使"となってしまったんだって。

その所為で、天界から堕とされて、ここに戻ってきた。

僕たちからしてみれば、フィアは堕天使なんかじゃない。

綺麗で優しい、天使だ。

「……フィアはさ、悲しかったり、しない?」

「何が?」

「天使の仲間に、なれなかったこと」

質問を重ねる僕。

フィアは悩んだ。

そして、まっすぐに僕を見て、微笑んだ。

「少しは悲しいかもな。だけど、これが俺の運命だ。

 それに……こうして、仲間の傍に戻ってくることができた。

 だから、ぜんぜん平気だよ。

 これからも俺は、この世界で生きていく」

きっぱりと、強い口調でフィアは言い切る。

綺麗なサファイアブルーの瞳が僕を捉えた。



―― あぁ、綺麗だ。



青空のように。あるいは、広い海のように。

優しく、強く、暖かい青い瞳。

そして、その瞳の奥に宿る、強い意志。


―― 負けない。


どんな状況にも、運命(さだめ)にも。

そんな思いを感じられる瞳を見て、僕は強く頷いた。



「ほら、アル。手が止まっているぞ。早く終わらせて帰ろう」

フィアはそういうと、作業を再開した。

僕も作業に戻る。





実は脆くて、泣き虫で、ちょっぴり意地っ張りで。

だけど、暖かくて、優しい、僕たちの天使。

たとえ"堕天使"と呼ばれていたとしても……






―― フィアは、やっぱりすごいや。




堕ちたりとも気高き心で




短編では初の?アル視点。

アルは、いつまでたってもフィア大好きっ子です。




 
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