騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□勿忘草 ― この世界で ―
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騎士になる試験を受け、合格通知をもらうまで、シストはロゼにそのことを明かさなかった。

明かしたら、絶対に姉は止めると知っていたからだ。

とめられたら、やめてしまう気がした。

だから、シストは姉に内緒で騎士になる試験を受けた。





そして、合格通知が来て、いよいよ入隊、というときに、告げた。

「姉貴」

「ん?なぁに?」

「俺さ……騎士になる」

「……え」

ロゼは、弟の告白に、驚いてソファから落ちた。

大丈夫かよ、と助け起こしながら、シストはいった。

「騎士になるんだ。明日から、ディアロ城の城勤騎士の訓練を受けにいく。ディアロ城に、住み込みで」

「……嘘」

驚きと、悲しさでいっぱいの顔をするロゼに、少し罪悪感。

でも、まっすぐに姉を見据えて、シストはいった。

「俺たちを拾ってくれた父さんたちに、そして姉貴に……恩返ししたいんだ」

まだ幼い弟。

彼が、騎士になるなんて、ロゼには考えられなかった。

だから、とめた。

嫌だ、と。

騎士なんて、いつ死ぬかわからない仕事。

ロゼも、危険な魔獣に襲われかけたことがないわけではない。

自分より幼いシストが、そんなのをたおすための訓練をするだなんて、とんでもないと思っていた。





でも。シストの覚悟は揺らがない。



「……わかった」

ロゼは、とめるのをあきらめた。

真剣な瞳。

その瞳に宿る覚悟を、無碍にはできなかった。






―― 出発の朝。

真新しい騎士服に腕を通したシストに、ロゼは小さな箱を渡した。

「はい、これ」

「何?」

「プレゼント!」

渡されたのは、オルゴール。

シストは、それを受け取った。

そして、旅立った。

新しい、世界へ。




それから何年もたって、今こうして……働いている。




―― 俺は、少しは強く、なれただろうか……



そう思うと、少し切ない。

まだまだ自分自身が弱いと、痛感してしまうから。



 
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