騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□勿忘草 ― この世界で ―
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それから、どれくらい時間がたったころだろうか。

空はすっかり暗くなっていて、それでもシストは動けずにいた。

「シスちゃーん!!ごはんだよぉ!!」

大きな声で自分を呼ぶ、姉の声。

シストはやっと顔を上げた。

その気配に気づいてだろうか、シストのほうへ、ロゼが駆け寄ってくる。

安堵の表情を浮かべると、ロゼはシストの手を引っ張ってたたせた。

「シスちゃんいた!何してたの?お友達が心配してたよ?かくれんぼの途中でいなくなっちゃったって」

「……」

答えないシスト。

ロゼは怪訝そうな顔をして、弟の顔を覗き込んだ。

「シスちゃん?どうしたの?お友達とけんかでもした?」

「違う。……姉ちゃん」

シストは顔を上げて、姉を見た。ロゼはきょとんとして首をかしげる。

「……"本当の両親"って、何?」

シストの口からつむがれた思わぬ言葉に、ロゼは驚く。

そして何度か瞬きをした後溜息をついて、言った。

「誰かに、言われたの?」

「……おばさんたちが話してるの、きいた」

シストの返答に、ロゼはさらに驚く。

そして、ぎゅっとシストの手を握ると、明るく笑った。

「帰ろう?パパもママも、心配してたんだから」

「答えてよ!」

シストは騙されない。

うまくあしらおうとした姉の手を振り払い、声を張り上げた。

「どういうこと?!俺たちの、父さんや母さんは……」

「……シスちゃん」

静かな声で、ロゼは言った。

"真実"を、告げるときだと、悟って。

「シスちゃん、私とシスちゃんは、本当の兄弟だよ。おんなじお父さんとお母さんから生まれたの。

 でもね……そのお父さんとお母さんは、今のパパとママじゃない」

「…………」

「でも、パパもママも私とシスちゃんのことを、大事にしてくれるでしょ?

 ……それで、いいんじゃないかなぁ」

駄目?と尋ねる姉。

シストは静かにうつむいた後、"駄目、じゃない"と呟くようにいった。

その様子を見て、ロゼは笑う。

「ね、帰ろう」

静かに優しくそういう姉についていくシスト。

二人の影法師が、地面に落ちる。




その日から、シストは自分たちがほかのことは違うのだと、理解した。

時には、"捨て子"だのといわれ、いじめられたりもしたが、そのたびに姉がその相手を叱った。



"私たちは家族なんだ"と。


その言葉が、純粋に嬉しかった。

実際の親の顔を、シストは知らない。

でも、それでもかまわないと思えた。

優しい両親がいて、大切な姉がいて。

そんな人たちを守るために、騎士になりたいと、思うようになった。




 
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