騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□勿忘草 ― この世界で ―
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部屋に戻り、シストは書類を片付ける。

魔獣の討伐報告や目撃情報。

そしてその他もろもろの資料。

こういったものをまとめるのは、セラのみだと思われがちだが、実はそうではない。

しかし、面倒なため嫌がる騎士が多いというのは事実だ。

シストは割りとこういった室内の仕事が得意で、自ら引き受けることもある。

そんなことをしているうちに、雪狼の書類整理係はシストになってしまったのである。

「ま、いいんだけどさ……」

独り言を言うと、シストは一度手を止めた。



頭に残る、夢の中の声。

目を閉じれば、鮮明に戻ってくる、記憶。


幼いころの、自分。

何も知らなかった、自分。

いつの間にか、シストは自分の過去に入り込んでいた。












―― シストが、三、四歳のころだっただろうか。


それまでシストは、"何も知らず"に、いきていた。

帰る家があって、三つ違いの姉がいて。

それが、"当たり前"と思っていた。



そんなある日。



シストは近所の子供たちとかくれんぼをしていた。

「どこに、かくれようかなぁ……」

子供なりに考えた結果、公園の植え込みの中にもぐりこんだ。

身体の小さな彼なら、容易に隠れられた。

そして。

きいたのだ。

シストと一緒に遊んでいた子供たちの親の、声を。



―― シスト君とロゼちゃんは本当に仲がいいわねぇ。

―― そうねぇ。ロゼちゃん、いい子よね。弟の面倒を見るために……




「……?」

シストは自分と姉の言葉に耳をそばだてた。

そのときは、特に何の意識もしていなかった。

しいて言うなら、好奇心。

しかし、次にきいた言葉は、彼にとっては驚くべきものだった。


―― シスト君たちって、孤児だったんでしょう?エリシアさんたちが引き取ったんですってね。


―― えぇ、きいたことあるわ。確か、シスト君の魔力が原因だと……




「……!」

孤児。

その言葉の意味は、幼いシストにはわからなかったが、自分の名前が出されたとき、氷の塊を飲み込んだような心境になった。

そして、続く言葉でなんとなく、"それ"を知った。




―― かわいそうにね。お姉ちゃんのほうは、きっと覚えているでしょう……"本当の"ご両親のことを。




シストは、その場から動けなかった。

シストをさがす事をあきらめた鬼が、友人たちが自分を呼んでも。

シストは、動けなかった。

あきらめて子供たちが帰っていく。

先ほど、自分たちの話しをしていた大人たちも、自分の子供を連れて帰っていった。



―― 本当の、両親。




その言葉が、耳に残っていた。



  
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