騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□精霊と麗竜 ― ハジマリの時 ―
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―― 昔話をしよう。

   君の師匠が、君くらいの年の時、どんな人だったのか。

   教えてあげる。

   今は優しく、強い彼も、君と同じ年の頃があったんだ。




精霊と麗竜 ― ハジマリの時 ―






「はぁ……」

アルは一人、溜息をついていた。

夕日が射していて、アルの白髪も、赤く染められていた。

「何やってるんだ?」

不意にかけられた声にアルは驚いた顔をする。

声のした方を向けば、見慣れた茶髪の男性……炎豹統率官、アレクの姿。

「アレク、様……?」

「どうしたんだ?そんなへこんだ顔して」

にかっと笑って見せるアレクを見て、アルは力なく笑った。

「ちょっと、失敗しちゃって……」

「失敗?」

キョトンとするアレクに、アルは自らの手を見せた。

「!」

アルの小さな手には包帯が巻き付けられている。

何をしたんだよ、という顔をするアレクにアルは説明した。

「さっき、魔術の練習中にちょっとぼうっとしてて……失敗しちゃったんです」







―― さかのぼること、数十分前。



草鹿の騎士たちはジェイドの指導の下魔術の練習をしていた。

戦うために使う魔術はめったに使わないのだが、時には使わなければならない時もある。

だから、時折こうして訓練をしているのだが……

いかんせん、アルは攻撃魔術が苦手。防御魔術は得意だが、攻撃魔術はさっぱりなのだ。

それでも、と練習していた時……

『アルっ!』

ジェイドの焦った声と同時に、一緒に練習をしていた仲間の技をもろにくらってしまったのだ。

とっさに手でかばったため、酷い怪我はなかったが……

あまりに不甲斐ない自らの所業に、アルは凹んでいたのである。








「あぁ、なるほど……で?ジェイドに叱られたのか?」

「いいえ……ジェイド様に怒られてはいないんですけど、心配させちゃったし……何より、申し訳なくて……」

はぁ、と溜息をつくとアルは俯いてしまった。その瞳から、ぽたりと涙が零れ落ちる。

アレクは暫く決まり悪そうに頬を掻きながらアルを見ていたが……

「アル、ちょっと昔話をしようか」

「え……?」

アルは顔を上げる。

アレクは穏やかに微笑みながら、頷いた。

「お前の師匠の、昔話だよ」

「え、ジェイド様……の?」

キョトンとして瞬きを繰り返すアル。

アレクはアルの隣に座ると、空を見上げた。

夕焼け色に染まる空。

茶色の鋭い瞳も、いつもより少し穏やかに見えて。

「俺とジェイドは同期生だったんだけど……」

アレクは話し始めた。彼らの、昔話を……





 
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