騎士たちの集会所(Knight 短編小説)
□Letter for angle
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願っても願っても、戻らない日がある。
"あの日に帰れたら"。
そう願う一方で、"今"という瞬間に感謝している自分もいて。
これは、そんな思いの中で生きている
―― 天使への、手紙 ――
Letter for angle
From " "
―― 愛おしい娘。
生まれたばかりの彼女は、弱弱しくて。
少しでも強く抱きしめてしまえば、壊れてしまいそうで。
でも、天使族のしきたりで、私たちは貴方を人間世界に残していった。
私と彼の間には、もう子供がいた。
彼の名は、フォル。
貴方と同じ、私と同じ、亜麻色の髪と、蒼い瞳。
"同じ"天使のはずだった。
―― 嗚呼、彼はどこで歪んでしまったの?
何時のことだったかしら。
貴女を、オーフェス家で"人間の子"として育っていく貴女を、天使の魔術で姿を隠してみていた時。
貴女の兄であるフォルは……
―― あとどれくらい待ったら、強大な力を得るのかな、あの子は。
突然そういって。笑ったの。
その時は、私も、私の夫も、笑ったわ。
「そうね、あと何年くらいかしたらかしら」
なんて、言って。
あの子の、フォルの言葉の裏に隠れた狂気に、私たちは気づけなかった。
気付いていたら、何か結果は違っていたかしら……?
ある日のことよ。
フォルが部屋から出てこなくなった。三日もよ?いつもは呼べば、すぐに出てくる彼が返事もせずに。
さすがにおかしいと思って、魔術で頑強に閉じられたその扉を壊した。
そこには……
―― 大きな、大きな、黒い魔法陣。
私たち天使族が使うそれは、白。
なのに、彼が楽しそうに床に描いている複雑な魔法陣は、黒。
つまり。
―― 悪魔族が使う、魔法陣。闇の魔術のための、魔法陣。