騎士たちの集会所(Knight 短編小説)
□Lost… ― 記憶 ―
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―― 記憶、思い出……
そういったものは、ヒトを強くも、弱くもするのだということを、知った。
Lost… ― 記憶 ―
「…………」
フィアは、一人で草鹿の病室のベッド脇に座っていた。
その手が握っているのは、フィアのそれより少し小さい、彼の親友の手。
「アル……」
小さな声で目を閉じたままの親友の名を呼ぶ。
きゅ、と強く握っても、反応しない彼を見て、少し泣きそうな顔をする。
「フィア、大丈夫ですから貴方も少し休んだらどうですか?」
ドアが開いて、入ってきたのは翠緑色の髪の男……ジェイド。
フィアはジェイドのほうをちらりと見た後、首を振った。
「……心配、ですから」
「でも、貴方まで倒れてしまったのでは、本末転倒でしょう?」
ジェイドがそういっても、フィアはかたくなに首を振る。
溜息をひとつつくと、ジェイドはフィアの隣に立った。
「全く……アルらしい、といえばアルらしいと言うか……」
「子供を庇った、って言っていましたよね……」
そう。
アルが眠っているのは、先ほどまで炎豹の騎士たちと行っていた任務の最中に合成魔獣(キメラ)に魔術をかけられたからだ。
随分昔に作られた合成魔獣らしく、製作者は不明。
つい最近までオリに入れられていたらしいが、そのおりも劣化していたのだろう。
壊れて、複数の魔獣が町に現れたとの連絡をうけ、討伐任務に向かったのだ。
そのとき、どういうわけか任務中の彼らの傍にやってきた子供を、魔獣が狙い、
アルはそれを庇って魔術を食らった……とのことだった。
「障壁を張るだけの余裕がなかったようです。普段のアルなら、防げるレベルの魔術だと思うのですが……」
ジェイドは困ったような顔をして、その白い髪をそっと撫でた。
「何の魔術なのかも、この子が目を覚まさないとわかりません……
……魔獣のタイプを見る限り、ある魔術のケースが考えられて、不安なのですが……」
ジェイドは険しい顔をして、呟くようにいう。
"あるケース"というのをフィアが聞こうとしたそのとき。
「う……」
小さく呻いて、アルが目を開けた。
黄色の瞳が、心配そうに覗き込むサファイアブルーの瞳を捉える。
「アル、大丈夫……」
「触るなっ!!」
バチッと、静電気のような魔力がフィアの手をはじいた。
思わず、握っていたその手をはなす。
「あ、アル……?」
「僕に触るな、近づくな……っ」
困惑するフィアに襲い掛かる魔力。
―― 何で?
アルに攻撃されたことに驚いて、フィアはすぐに動けなかった。
とっさに、腕でそれを防ごうとしたフィアの前に、障壁が現れる。
「ジェイド様……?」
「怪我はありませんね、フィア」
フィアが頷くと、ジェイドはほっとした顔をした。
そして、すぐにその目をアルに向ける。
「アル、やめなさい」
きつい口調。
アルは、おびえきった瞳をジェイドに向けた。
そして、ジェイドが一番危惧していた言葉を吐く。
「やだ!!怖いよ……ここはどこ……?!」