騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□Lost… ― 記憶 ―
1ページ/13ページ


―― 記憶、思い出……

   そういったものは、ヒトを強くも、弱くもするのだということを、知った。




Lost… ― 記憶 ―



「…………」

フィアは、一人で草鹿の病室のベッド脇に座っていた。

その手が握っているのは、フィアのそれより少し小さい、彼の親友の手。

「アル……」

小さな声で目を閉じたままの親友の名を呼ぶ。

きゅ、と強く握っても、反応しない彼を見て、少し泣きそうな顔をする。

「フィア、大丈夫ですから貴方も少し休んだらどうですか?」

ドアが開いて、入ってきたのは翠緑色の髪の男……ジェイド。

フィアはジェイドのほうをちらりと見た後、首を振った。

「……心配、ですから」

「でも、貴方まで倒れてしまったのでは、本末転倒でしょう?」

ジェイドがそういっても、フィアはかたくなに首を振る。

溜息をひとつつくと、ジェイドはフィアの隣に立った。

「全く……アルらしい、といえばアルらしいと言うか……」

「子供を庇った、って言っていましたよね……」

そう。

アルが眠っているのは、先ほどまで炎豹の騎士たちと行っていた任務の最中に合成魔獣(キメラ)に魔術をかけられたからだ。

随分昔に作られた合成魔獣らしく、製作者は不明。

つい最近までオリに入れられていたらしいが、そのおりも劣化していたのだろう。

壊れて、複数の魔獣が町に現れたとの連絡をうけ、討伐任務に向かったのだ。

そのとき、どういうわけか任務中の彼らの傍にやってきた子供を、魔獣が狙い、

アルはそれを庇って魔術を食らった……とのことだった。

「障壁を張るだけの余裕がなかったようです。普段のアルなら、防げるレベルの魔術だと思うのですが……」

ジェイドは困ったような顔をして、その白い髪をそっと撫でた。

「何の魔術なのかも、この子が目を覚まさないとわかりません……

 ……魔獣のタイプを見る限り、ある魔術のケースが考えられて、不安なのですが……」

ジェイドは険しい顔をして、呟くようにいう。

"あるケース"というのをフィアが聞こうとしたそのとき。

「う……」

小さく呻いて、アルが目を開けた。

黄色の瞳が、心配そうに覗き込むサファイアブルーの瞳を捉える。

「アル、大丈夫……」

「触るなっ!!」

バチッと、静電気のような魔力がフィアの手をはじいた。

思わず、握っていたその手をはなす。

「あ、アル……?」

「僕に触るな、近づくな……っ」

困惑するフィアに襲い掛かる魔力。


―― 何で?


アルに攻撃されたことに驚いて、フィアはすぐに動けなかった。

とっさに、腕でそれを防ごうとしたフィアの前に、障壁が現れる。

「ジェイド様……?」

「怪我はありませんね、フィア」

フィアが頷くと、ジェイドはほっとした顔をした。

そして、すぐにその目をアルに向ける。

「アル、やめなさい」

きつい口調。

アルは、おびえきった瞳をジェイドに向けた。

そして、ジェイドが一番危惧していた言葉を吐く。

「やだ!!怖いよ……ここはどこ……?!」




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ