騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□Lost…― Voice ― 
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Lost…







「おい、フィア!そっち行ったぞ!」

「わかっているっ!」

フィアとシストは、共に魔獣退治の任務に赴いていた。

大型の狼に似た魔獣。

シストの動きが目に見えて悪いことは、フィアもわかっていた。

普段は、こういったタイプの魔獣のときは、シストを任務にいかせないルカだが今回は知らなかったらしい。

実物を見て、これが標的だとわかったため、今更退くということもできず、戦っているわけだ。

「……シスト、大丈夫か?」

フィアは心配そうにパートナーを見る。

「……平気、だよ」

そういってにかっと笑って見せるシスト。

しかし、その表情には少々無理がある。

シストは、苦手としているのだ。

こういう、狼のような姿をした魔獣に、元のパートナーを殺されているから。

こういった魔獣を相手にしたときのシストは、明らかに動揺してしまう。

フィアも、そのことはよくわかっていた。



―― さっさと終わらせてやるか。



フィアは剣を握りなおした。

と、そのとき。

フィアの蒼い瞳が見開かれる。

「シスト……!」

「え……?」

振り向くシストに迫る獣の牙。

フィアはパートナーの体を強く押した。

転ぶシスト。

「フィア……ッ!!」

"あのとき"がフラッシュバックして、シストは叫んだ。





フィアの剣が、魔獣の攻撃を相殺する。

もがいた魔獣の爪がフィアの腕を引っかき、僅かに血が飛ぶ。

「う……っ」

力勝負になると、フィアのほうが圧倒的不利だ。

剣でかろうじて敵をはじきとばすと、フィアは後ろに転ぶ。

弾き飛ばしつつ、氷魔術を放って魔獣を倒した。

「……はぁ……っシスト、大丈夫か……っ?!」

フィアは、シストの方を見て、驚いた顔をした。

「シスト?!シスト、どうした……?!」

攻撃は受けていないはずだ。

なのに、シストが倒れていた。

フィアは剣を収め、ほかに敵がいないか確認してから、彼に駆け寄った。

「シスト、おい!」

声をかけても、反応しないパートナー。

顔色が悪い。否、戦闘が始まってからずっとだったが……

「シスト……無理するなよ、馬鹿」


―― やはり、一人でやるべきだったか……



フィアはぐっと唇を噛むと、そっとパートナーの身体を抱き起こした。

身長的に厳しいものが生じるが、そんなことを気にしている場合ではない。





 
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