騎士たちの集会所(Knight 短編小説)

□勿忘草 ― この世界で ―
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―― 幼いころの記憶は、良く俺の夢に現れる。

   俺が、孤児だと知ったときのこと。

   "孤児である"ことが、何を示しているのかを知ったときのこと。

   ……姉貴のことが大好きだと、改めて思ったときのこと。

   そして、あれから何年もたって、いくつもの記憶を重ねた。

   痛いものも、苦しいものもある。
   
   だけど、俺は……




勿忘草






「……」

シストは、ベッドに身体を起こした。

今しがた見ていた夢と、現実が混同して、"ここは何処だ?"と一瞬思考がフリーズする。

「……久しぶりに、見たな」

あのときの夢を、と静かに呟く。

うつむいた拍子に流れてきた前髪を払って、溜息をついた。



―― ……は、孤児なのよ。

―― かわいそうにねぇ……お姉ちゃんのほうは、弟のために……



よみがえる、大人たちの心無い言葉。



―― お前らの親は、本当の親じゃないんだろ!

―― うちの母ちゃんがいってたぞ!!




よみがえる、子供たちの残酷な言葉。



―― うるさい!!誰がなんと言おうと、私とシスちゃんのパパとママは……!!


そして、いつだって、守ってくれたのは。

桃色の少女。

自分の、たった一人の血を分けた姉弟。

「……さっさと起きるか」

シストはベッドから降りる。

椅子に引っ掛けてあった上着を羽織り、留め具を留める。

そのときに、上着のすそで何かをはじいた。

こつ、と音を立てて倒れたそれを見て、シストは笑う。

「……懐かしい」

今は、壊れて音が出にくくなってしまったオルゴール。

ぜんまいをまわして、シストはそれを机の上におく。

弱弱しく、でも美しく。オルゴールは曲をつむぐ。

曲は、シストが一番好きな曲。

ロゼが、入隊祝いに買ったものだ。



―― これきいて、お姉ちゃんのこと思い出してね!



冗談なのか本気なのかわからない口調で、ロゼはそういっていた。

そのときの姉の、泣き笑いの顔を思いだす。

「……さて。明日のために仕事終わらせるか」

ぐっと伸びをして、シストは部屋を後にした。



 
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