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□■天気良好
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「はぁ〜…あっついよねぇ」
「ロベルトってば、さっきからそればっかりだよ?」
「だってこんなに暑いのに正装って……いっそ脱いじゃおっか!」
「駄目に決まってるでしょう。ふざけた事はおっしゃらないように」
「……はーい」
八月、この国も母国同様に夏は息苦しいまでに暑く、流石に中庭で開かれる定例会見は堪え難い行事だ。
記者達も皆一様に汗を拭いながら強い陽射しの元、変わらず炎天下で行われる。
「会見の時間です。ロベルト様、参りますよ」
「あ、それなんだけどさ。アルに至急頼みたい事があるんだけど、ちょっといいかな?」
「はい?」
「?」
会見直前まで粘っていた苦手な詰め襟を漸く留めたロベルトが、何か思い立ったのか突然そう切り出した。
何事かと顔を訝し気にしかめるアルベルトさんに、ただ『?』と小首を傾げる自分。
ロベルトの頼みとやらを耳打ちに聞き入れた後、アルベルトさんは少し驚いたように目を見開いたが、次第に柔らかく微笑んで見せた。
「かしこまりました。ではそのように」
「じゃあ、頼んだよ」
颯爽とその場を立ち去るアルベルトさん、ロベルトはといえばぴしゃりと着熟した正装姿で『行ってきます』と手を振り、会見に望むべく私の前を後に中庭へと向かって歩いて行く。
(ロベルトってばアルベルトさんに何を言ったんだろう……?)
そう頭の隅で浮かべた疑問符に小首を傾げながら、私も彼の後を追って中庭へと向かった。
「……以上が私の見解とさせていただきます。では、これで」
茹だるような暑さの下、滞りなく会見は終わり、物陰から彼の勇姿を眺めていた私は、気付けば額に汗が滲んでいた。
(相変わらず王子様な時のロベルトってば頼もしいな…。それにしても……)
普段の彼とは違い、記者達を前にして言葉を述べるロベルトは凛々しく、それでいて強く逞しい『王子』だ。
その姿は指導者として惹かれる物を十二分に兼ね備えており、彼の発する言葉には芯も筋もある。
それを伺える貴重な会見の場ではあるのだが、伝統とはいえ、こうも陽射しが強いとやはり記者達も参ってしまっているようだった。
(ロベルトも心配だけど、記者の人達は先に待機してた訳だし、熱中症とか大丈夫かな……)
木陰に佇み遠目に眺めている自分としては、長い事陽に曝された彼等が心配になる。
内心、そう記者達の容体を懸念していたその時、アルベルトさんの声が辺りに響いた。
「皆様、お暑い中ご苦労様でした。こちらはロベルト様から皆様にとのお心配りでございます。どうぞお召し上がりください」
その声に一瞬ざわついた記者達が、次には揃って『おお!』と歓喜の声を上げている。
『何だろう?』、そう思いながらそろそろと記者達の背後に回り込み、人垣の隙間からちらりと様子を伺えば。
「飲み物に……かき氷?」
そこにはグラスに入った冷たい紅茶にコーヒー、そして見た目にも涼しいかき氷だ。
思い思いの味付けを頼み、汗を滲ませながら笑顔でそれを口へと運んでいく記者達。
一気に清涼感に包まれたのか、彼等の真っ赤に火照っていた顔は涼しい物へと変わっていく。
「みーつけた!良かったら一緒に食べる?かき氷」
「ロベルト、これって……?」
「ん?かき氷だよ、知らない?」
「知ってるけど……あ、もしかしてロベルトがさっきアルベルトさんに頼んだのって……」
「そ、こんなに暑い中ずっと前から集まってくれてるんだもん。バテちゃうでしょ?それに会見の後は皆が笑顔で城を後にしていってくれたら嬉しくない?」
「ふふっ、うん……嬉しい!」
八月。
この国は夏の真っ盛り。
陽気で穏やかな国民性、その象徴ともいうべきこの国の王子様は、それこそ太陽のような人で。
「ロベルト様、いただきます!」
「ありがとうございます、ロベルト様!」
「皆さん、どうぞ体温が下がるまでゆっくり休憩を取られてください。夏バテでもしたら大変ですから」
「いや〜、正直この暑さに堪えていた所でしたんで、嬉しい限りです!ロベルト様、ありがとうございます!」
「ちなみに私のお勧めは苺のシロップです。是非どうぞ」
「ははっ!ではそちらをいただかせていただきます!」
背丈の伸びた向日葵、肌に纏わり付く湿度。
真っ青な空は何処までも澄み渡り、入道雲から飛び出した飛行機が、空に真っ白な線を引いていく。
「ふふっ、じゃあ私も貰おっかな、かき氷」
「うん、食べよ!何味がいい?」
「イチゴ!」
アルタリアは今日も晴天です。
ってね!
まさかのアンケート項目から派生させてみた短編^^
MEMOに書いた話です。