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□■PROPOSE TO YOU
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ね、だから言ったでしょ?



君と3回目が合った時に感じた想いは間違いじゃなかったんだ。



運命だったんだと、そう強く想えるよ。












PROPOSE TO YOU










出会い頭に『ほら!急いで!』、そう急かされて慌てて駆け登る大階段。


『うるさいな、わかってるよ!』だなんて切り返しながら2段抜かしで階段をひた走る。


登り切った先、“巻き”を意味する、手をぐるりと振り回すジェスチャーでシンシアが急かすの何の。


背後から飛んでくる報道陣や観衆達の声が、これまた『間に合いますか?!』だなんて声だったりで。


『急いで!』ってグイッと袖口を引っ張られながらも、シンシアを待たせて振り返り『何とか間に合いました。皆様後程改めてまたお会いしましょう』、そう言って観衆に見せる取り敢えずな満面作り笑顔。


『ロベルト様、参りますよ!』と、流石のアルも相当走ったからかうっすら額が汗ばんでいて。


そこから先は猛ダッシュ。


こんなに走ったのなんていつ以来だって感じな何百メートルダッシュだろう。


こめかみからも襟足からも汗が滲み出してきて、耳の中で自分の『はっ、は!』って息継ぎが反響して。


走りながら正装の襟元を緩め、上着を脱ぐとそれを放り投げた。


すかさず背後で上着をキャッチするアルも、今回ばかりはそんな暇も無いからか雷は落とさない。


『こっち!』、先を行くシンシアに促され入る控室、室内に飛び込めば視界の先にある壁に。


掛けられるは即位する戴冠式と今日この日にのみ着用する、代々受け継がれてきた伝統のデザイン、上から下まで白い正装。


それに袖を通す意味。


シンシアがいようといまいとお構いなしに、『後ろ向いてて!』ってそれだけ言って大慌てで着脱する早着替え。


走り過ぎて脇腹が痛くて、喉の奥も張り付いてるのか『ヒュー』って鳴るしで。


着替えを手伝う使用人に差し出されたグラスの水を一気飲みし、『時間は?!』って聞いたら『開始3分前です!』だなんて、アルも切羽詰まってて。


誰も彼も大慌て、冷や汗に青冷めながら準備する、これが本当のバタバタってヤツかと改めて考える。


ここまで来る途中に後部座席から眺めていた窓の外、路上でうずくまる壮年の男性に。


リムジンを止めて声を掛け、救急車を手配したなら今日の日を祝う為に集まった群集、それにより街は大渋滞で。


リムジンに乗せて男性を病院まで直に向かわせ、捕まえたハイヤーで移動しようとしたなら今度は迷子。


小さな女の子を抱きかかえて母親を探し歩き、そうして気付けば大遅刻。


もみあげからポタッて垂れる汗を拭う事すら後回し、急いでる時の手袋を嵌めるもたつきようといったらない。


中指と薬指が一つに納まったりなんかしちゃってさ。


『もう、何やってんのよ!』だなんてさっきから横でうるさいシンシアに、俺も段々『ああ』って流し出した。


上から下まで着替えを済ませば鏡に映る真っ白な自分。


それを見たなら即ち、上から下まで真っ白な彼女が待っているという事だ。


『ロベルト様!さぁ、時間がありません!』、そう言ってアルが開け放した控室の扉を飛び出して。


君の待つ部屋まで向かおうと駆け出した矢先、回廊の奥、正面からこっちに向かって駆け寄る純白の姿に。


一目見た瞬間に泣きそうになって。





『どう?いい出来でしょ、ヴェールは例のレースで作ったのよ?』ってご満悦なシンシアに。


聖堂の前、『ご準備を』って今か今かと整列を待つこの城の執事。


『晴れのお姿を遠くより見守らせて頂きます』、そう言うアルがこっそり言葉を落とした続き。


『旦那様のお隣りに奥方様の席もご用意しております』、それだけでもう泣きそうだったのに。


上がった息を整えながら聖堂の扉に向かって走り寄る俺に、廊下の先から走ってくる君が言った一言が。





『ロベルト、迎えに来たよ!』





それは俺が君に言った言葉で。


そっくりそのまま君に返されたのが今日、この日だという事に。


胸の奥も目頭も鼻先も、つんとしてキュッてして。




『ごめん、遅くなって』と言えば、『ううん、理由を聞いたらロベルトらしくって思わず笑っちゃった』って向けられる笑顔。


『時間です』、微笑みながらそう言ってゼンが開ける聖堂の扉。


何回も事前に予行した段取り通り、先に歩くのは自分で。


徐々に開かれる扉、ミッシェル城の聖堂からの光が扉の隙間から眩しく広がる。


その直前、僅か数秒に。




『結婚しよう』、改めてそう言えば、『うん!』って君が笑うんだ。




長く続く祭壇までの道程を先に一人歩けば、いつの間にやら上がった息は整って、落ちていた汗も引いていた。


筋書き通りに進む進行に、再び来た道を振り返る、この事にすら意味があるんだと強く思えた。


歩いて来た道を振り返ったなら、立ち止まる自分に向かって歩いてくる君が。


追い付き、肩を並べて隣に立つ、それに今までの人生全部を乗っけてみたりして。


『手順飛ばして今すぐキスしちゃいたいね』、こっそり囁いたら『もう』って君がヴェール越しに笑う。




そうして神様の前で誓うんだ。




君と二人、終わりのない幸せを。





この子にこの先何度でも、最期の眠りにつくその日には天国に旅立ってからも何度でも






君にプロポーズを。






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