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□■キラキラ星
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空を見上げたら星が落っこちてきそうだったんだ。


その中の一つにママがいるなら




今すぐ落ちて来てって思った。




痛いくらいに首を反らして、星を見上げて何回も祈る様にお願いしていたら





パパが困ったように笑ってて




アルがずっと手を繋いでくれてた。













………………………………
……………………………

















城壁に沿ってぐるりと歩いていけば、城の一角、青々とした垣根に囲まれた赤い煉瓦造りの庭師の剪定道具小屋が現れる。


その小屋の裏手、胸の高さ辺りまで積み重なった、元は鉢植えが入っていたであろう木箱。


それらを『よいしょ』と積み変えては、積木の様に重ね直して出来上がるのは。


ロベルト『よし、出来た!“お出かけ階段”!』


ロベルト曰く、『お出かけ階段』と名付けたそれは、言わば簡易式の脱走術の内の一つで。


ロベルト『よいしょっと、せ〜の……えいっ!』


今日まで誰にも気付かれない事から、今では城から抜け出る際には、これが一番の脱出方法。


『お出かけ階段』を登ると、脇に生える背の高い樫の木の枝に届き、木の枝を使って高い城壁の上に登れば、そこから垂れ下がる一本のロープ。


器用にもそれをつたい下り、『たんっ!』と両足を地面に着けば。


ロベルト『ん〜。今日も天気がいいし……さて、何処行こっかな!』


そこはもう自由で陽気な世界、まだまだ小さくやんちゃなロベルトにとっては。


いつだって胸を踊らせる、ワクワクな『城の外』な世界。











店主『はいよ!いつもありがと〜な、ボウズ!』


カップにテンコ盛りなマロングラッセとマロンジェラート、『ご一緒にどうぞ』とジェラートに挿してあるのはビスケット。


ロベルト『あれ?ビスケットがついてるよ、クリームも……何で?今日は何か特別なの?』


店主『はっは!お前さんがれっきとしたうちの“お得意さん”って証拠さ。おまけだよ!』


ロベルト『うわ〜!ありがとう!』


銀色のコイン2枚と銅色のコイン1枚で買えるマロンジェラート。


それは街に出る度に決まって食べる、今のロベルトの定番アイテム。


幼いロベルトが毎回1人で現れては、根掘り葉掘り聞かずに温かく迎えてくれる、そんなこの店の人々がロベルトは大好きだ。


店内のイートインスペース、椅子に座り、下まで届かない足をプラプラと遊ばせながら『美味しい!』と食べていた時。


ロベルト『シンシア〜!』


ガラス戸の向こうに見えるは、見知った小さなシルエット。


シンシア『ロベルト!また街に来てたの?』


ロベルト『シンシアこそ学校はまたお休み?』


シンシア『まぁね』


午前11:00。


本来ならば学校に通っている筈の幼い子供達が2人。


それはこの周辺、大人達には見慣れた光景だった。


店主『……お嬢ちゃんも食べるかい?』


シンシア『あー…食べたいけど、でも…』


ロベルト『お金?お金ならあるよ、はい』


ロベルトのポケットの中には数枚の紙幣に『ジャラリ』と鳴るコイン。


店主『……いや!いいさ、今日はお嬢ちゃんには特別ご馳走してやろう!』


ロベルト『え〜!ずるいや、俺ちゃんと払ったよ?!』


店主『その代わりボウズは次回に持ち越ししてやるから、な!ほら、何がいいんだい?』


シンシア『クッキーサンド!』


店主『りょ〜かい!』


この小さな子供達の後ろに垣間見える、小さな胸いっぱいにあるだろう不安は、彼等を頻繁に見かける街の人々は薄々と気付いている。


シンシア『ロベルト、天気いいからあっちで食べよ!』


ロベルト『うん!』


店主『あっ、おいおい!合言葉は覚えてるな?2人で一緒に言ってみるんだ、いいかい?さんっ、はい!』


ロベルト『知らない人には!』


シンシア『ついて行かな〜い!』


店主『そーだ!後もいっこ追加だ。陽が沈む前にはちゃんと家に帰れよ?』


ロベルト『は〜い!』


シンシア『は〜い。じゃ、行こっ』


ロベルト『うんっ』


小さな2人が小さな手を握り合って、小さな足でパタパタと店を出て行く様に。


店主『何だかな……』


店員『またあの子達……大丈夫なのかしら』


店主『ガキっつーもんは、目線が低い分、大人には見えない地面に落っこちた色んなモンも見えちまうのさ。色々と……見えるモンがあるんだろーよ』


その後ろ姿に思いを馳せる、無邪気なだけでは無い、小さな胸に抱えてるモノの正体はわからずとも。


店主『次あいつらが来た時には、これをサービスしてやってくれ』


店員『ふふっ、大サービスですね』


店主『この俺特製のビスコッティさ。ガキに大金はいらんだろうよ!その変わり親と来たらちゃんといただくさ』


店員『はい、わかりました』


大人とは違う目線、低い視界で捉える世界。


純粋過ぎる、染まらない子供達の心は明るくも、また、ほんの些細な事にでもお日様を陰らす夜が訪れたりもする。


ロベルト『シンシア、今日も学校で嫌な事言われたの?』


シンシア『ん〜…嫌な事って何なんだろ。嫌な事しか言われなくなってきたから、良い事と嫌な事もわかんなくなってきた』


ロベルト『そっか…』


穏やかな陽気は正午を迎えるにつれ、陽射しは段々に強く変わり、手元のジェラートは溶けるのが早い。


ペロッと舐めながら交わす言葉のやり取り、その内容を先程の店主達が聞いたならば、更に胸を痛めた事だろう。


シンシア『ロベルトは今日はどうしたの?』


ロベルト『天気が良かったから!』


シンシア『そんな理由?城の人達が聞いたら、きっと毎日雨よ降れーって思うんじゃない?』


通りに沿って等間隔に植え込まれた街路樹。


その真下に腰を下ろし、並んで食べるジェラートに、アイスの挟まれたクッキーサンド。


溶け出したそれらを慌てて食べる2人の前に、突然に自分達よりも小さな男の子の泣き叫ぶ声。


男の子『ママ〜!ママ、何処ーっ!』


辺りをキョロキョロともせず、ただ立ち尽くして男の子が『うわぁぁん』と泣いている。


シンシア『迷子かな?ねぇ、ロベルト……あれ?』


ロベルトに『一緒に探してあげよっか』、そう声をかけようと隣を見遣ったシンシアだが、そこにロベルトは既に居なくて。


ロベルト『ママ、いないの?』


男の子『うわぁ〜ん!』


ロベルト『ね、俺も一緒に探してあげるから。ほら、行こ?』


男の子『ひっく…うん…』


シンシア『ロベルト……待って!私も行くっ、探す!』


片手には今にも完全に溶けてしまいそうなジェラート、それを食べる事なく、もう片方の手で男の子の手を取って。


小さな子供達が2人、更に小さな男の子を真ん中に挟んで3人で。


ロベルト『この子のママ〜!何処にいるのー?!』


シンシア『マルコ君のお母さ〜ん!何処ですかー!』


男の子『ママ〜!』


そうして探す事暫し、『マルコ!』と駆け寄ってくるのは1人の女性。


男の子『ママっ!』


ロベルトとシンシアの手を振り切ると、男の子もまた母親らしき女性の元へと、全速力で駆けて行く。


シンシア『良かったね、見つかったみたい』


ロベルト『は〜!うん、良かった!』


無事に迷子の男の子を母親に引き合わせ安堵する2人に、母親が近寄り、目線を合わせるようにしゃがみ込む。


母親『ありがとう、2人共。一緒に探してくれたのね』


シンシア『ううん、気にしないで!ね、ロベルト』


ロベルト『うん、良かった』


母親『本当にありがとうね。2人は?お母さんと一緒に来てるの?』


シンシア『ううん、私達は……』


母親の穏やかな笑顔での問いに、シンシアもニッコリと笑顔を返し、言葉を繋げようとした時。


ロベルト『ママ、いないから』


母親『あら、じゃあパパと来てるのかしら?あなた達も迷子にならないようにね』


ロベルト『うん』


今一度母親が『ありがとう』と微笑み、男の子もブンブンと身体が左右に揺れる程大きく手を振る。


そうして2人の前から去って行く母子を見送ると、シンシアがロベルトを見遣った。


シンシア『ロベルト…』


ロベルト『ママの所に帰れないと“迷子”になるのかな』


シンシア『ロベルトったら…ロベルトには国王様だって……』


ロベルト『だったら俺……ずっと“迷子”だ』


シンシア『ロベルト……』


手元のジェラートはカップの中でジュースの様に溶けていて。


ロベルト『でも良かったね、マルコ。ママがいるならママと一緒が一番いいよ』


飲んでしまえる程溶けてしまったジェラートを、ロベルトは暫くそのままに手にしていた。














アルベルト『ロベルト様、もう城を抜け出すなんて駄目ですよ!聞いてますか?!』


シンシアと別れて直ぐ様、黒塗りのリムジンから下りて来た国王付きの執事により、ロベルトは敢なく城へと戻され。


ロベルト『は〜い』


アルベルト『は〜いでなく、はいです!伸ばさない!』


ロベルト『はいはい』


アルベルト『一回でいいんです!』


戻るなり今の今まで教育係のアルベルトに雷を落とされていた。


年の近いアルベルトは表向き『教育係』と銘打ってはいるが、実際は別に教育係はちゃんと居り、いずれ正式なロベルトの教育係になるのではあろうが、今の段階ではロベルトのお目付け役といった所で。


アルベルト『国王様も心配なされておいででしたよ。来客中ですから、後できちんと謝りに行くように』


ロベルト『は〜い』


アルベルト『返事は?』


ロベルト『はい』


アルベルト『よろしい』


この雷から身を守る避雷針を探してはいるが、中々にして見付けられないのだ。


ロベルト『ちぇっ、アルの怒りん坊〜。俺、今日いい事してきたのにぃ』


アルベルト『良い事?』


ダイニングのテーブルに頭を突っ伏し、唇を尖らせ拗ねるロベルト。


そこにカチャリと開いた扉、そこから穏やかな声音がロベルトの呟きに言葉を繋げてくる。


国王『おや、ロベルトは街でどんな良い事をしてきたのかな?』


ロベルト『パパ!』


アルベルト『ロベルト様、パパではなくてお父様とお呼びするようにと、あれ程……』


国王『ははっ、いいんだ。いずれパパとは呼ばなくなるんだからな。今の内だけの私の喜びだ、構わんよ』


アルベルト『はぁ…』


ロベルト『パパ、お客さんは?』


国王『ああ、もうお帰りになられたよ。それよりお前が今日一日、街でどんな冒険をしてきたのかパパに教えておくれ』


姿を見るなり椅子から下り、自分の元へ駆け寄る小さなロベルト。


これには今の今まで大臣と交わした書類や議題についての内容の重たさ等、いとも容易に肩から拭い去る。


国王はしゃがみ込むとロベルトの頭にポンッと手を置き、柔らかな笑みで我が子を見遣る。


ロベルト『迷子になっていた男の子のママをシンシアと一緒に探してあげたんだ!』


国王『シンシア……シンシアは今日も学校を抜け出したのかな?』


ロベルト『抜け出したんじゃないよ、学校はシンシアにとって今は行かなくてもいいとこだよ!我慢して行くなんて変だもん』


国王『そうか……わかった。で、迷子の子のママは見付かったのかな?』


ロベルト『うんっ』


国王『それは良くやったな、立派な行動だ。偉いぞ、ロベルト』


大きな掌でくしゃりと撫でられた感触はくすぐったく、癖っ毛はふわんと跳ねた。




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