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□■アルベルト〜片思い〜
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……………AM7:00
ドアをノックするも返事がない。
朝はいつもそうだ。
構わずドアを開け、部屋に入る旨を口にするとツカツカとベッドに向かう。
ベッド中央に布団をすっぽりかぶり、丸く横たわるシルエット。
その布団を容赦なく引きはがす。
バサッ
『ロベルト様、おはようございます。いい加減起きてくださ…………?!』
そこにあるのはクッションが4つ。
『…………こしゃくな』
ロベルト様にまた一本取られた。
……………AM8:00
『何だ。またロベルトは抜け出したのか。しょうのない息子だ』
呆れながらもどこか面白可笑しく笑いながら国王様が朝食をとる。
『行き先はどうせ彼女のアパートだろう?ならば、そう目くじらを立てんでも……』
とんでもない。
ロベルト様には山のようにお仕事があるというのに。
『お迎えに行ってまいります』
国王様に一礼すると、目尻を下げて軽く笑う声。
『ここで私がロベルトに“アルベルトが今から行くぞ”と電話をする事は?』
『ご遠慮願います』
ピシャリと言い切ると再度一礼してダイニングを出る。
全く、こういう時の国王様はロベルト様を甘やかして困る。
『車を出してください』
リムジンに乗ると彼女のアパートがあるシャルル王国へと車を走らせた。
…………AM11:30
『まさか朝から連れ戻されるなんて……アルのけちんぼ』
説教の後、ロベルト様がふてくされながらダイニングのテーブルに頭を突っ伏す。
『ケチで結構。ロベルト様には自覚が足りません。私が注意をしないで誰がするというのです』
『ちぇー…せっかくデートしようと思ったのにぃ……頭でっかち!』
『まあまあ、ロベルト……』
毎回、ロベルト様と共に彼女も叱るはめになる。
致し方ない。
連帯責任だ。
『ぶーぶー言ってないでロベルト様はお仕事にさっさと取り掛かっていただきますようお願……』
『ぶーぶー』
『おうむ返ししない!』
ロベルト様を引きずるようにして執務室に連れて行くと山のような書類を机に積み上げた。
……………PM2:25
『違います』
『はい、すみません……』
リビングで彼女にアルタリア語を教える。
公用語だけではなく、王太子妃になるにはアルタリアの言語も覚えていただかなければ。
『貴女はいずれアルタリアの母になるお方なのですから、身につけるべき事はまだまだ沢山ありますので』
『はい。頑張ります』
弱音は吐かない。
どれ程強く言っても決してめげない。
(ロベルト様の奥方には相応しいのかもしれないが……)
まだ弱さの残るロベルト様に対し彼女は強い意思がある。
(まあ……重圧の中で必死なのだろうが……)
ふと……
彼女は気を張り詰めていやしないかと気になった。
……………PM5:30
『はあ……』
『お疲れ様でございました。残りは明日またお教え致しますのでよく復習なさっておいてください』
彼女は今シャルル王国とアルタリアを往復する生活だ。
城にいる間はみっちり私が教養とマナーを教える。
教育係だった自分が懐かしく感じる時間だ。
『あ、アルベルトさん』
ふいに彼女が声をかけ、振り返れば彼女の手には細長い包み紙。
『この間お誕生日でしたよね。遅れましたけどよかったらこれ、使ってください』
愚痴もこぼさず、弱音も吐かず
(しまいにはプレゼント……)
『お気遣いいただきありがとうございます』
そっとそれを手にすると、ニコッと微笑み部屋を出て行った。
…………?
(……心臓がうるさい……)
『不整脈か……?』
彼女がくれたプレゼントを、やけに大事に手にする自分がいた。
……………PM7:00
『ホントだったら今頃手料理食べてたのになぁ……』
『また今度作ってあげるから、ね?』
『いつまで拗ねてらっしゃるのです?自業自得です』
ロベルト様は拗ねていたかと思えばコロッと表情を変えたりする。
『ね、じゃあ今度お城で何か作って。あ、それとも一緒に作ろっか』
『ふふ、ロベルト料理出来るの?』
その切り替えのスイッチはどこについているのか。
途端に始まる楽しげな内緒話。
そんなのはいつもの事で、今は食事の最中で。
だから会話を楽しむ分には問題はない。
…………?
胃がキリキリと痛む。
(ストレスからくる胃炎か……?)
何故だか身体が朝からせわしなく不調を訴える。
理由はわからないが……
ジャケット内側。
内ポケットの中にある君から貰ったプレゼント。
私が動く度に、包装紙がカサリと音をたてた。
……………PM9:45
ひとまずの区切りをつけて自室に一旦戻る。
私の仕事はまだまだ終わらない。
少しの休憩をと、ソファに座り自ら煎れたコーヒーを口にする。
『ふう』と背もたれにもたれると、胸でカサリと乾いた音。
(ああ……)
内ポケットに入れたままの彼女からのプレゼントを取り出した。
包装紙の四つ角にシワが寄ってしまっている。
自分でも何故かはわからない。
無意識な内に大事にしまわれていたプレゼントの擦れた四つ角を見て、少し残念に思った。
包みに手をかけ開ければ、そこには上等な万年筆。
惜しみなくカードを切るロベルト様と違い、彼女の金銭感覚は一般人のそれと同じで……
(万年筆だとてピンからキリまであるだろうに……)
彼女なりに無理をして買っただろう事は容易に察しがつく。
欲しい等とは一言も話してはいない。
ただ、万年筆の調子が悪いところを彼女が見ていた事はある。
…………?
ぐっと息が詰まる気がした。
(風邪でも引くのか?喉からくるかもしれないな……)
彼女と接する度に連鎖していく体調不良。
それが何かもまだわからない。
…………PM11:00
広い城内を見て回る。
警備面ではなく、不備がないかを確認して回るのだ。
途中、自室に戻る料理長に声をかけ、明日の朝食にはフルーツを多めにと言伝をした。
彼女は果物が好きだからだ。
そのまま広い廊下を歩いて行くと、正面から彼女が歩いてくる。
『こんな時間に何をされているのです。早くお部屋にお戻りください』
『あ、すみません。ロベルトに教えて貰おうかと思って……』
手には昼間私が教えた内容をまとめたノート。
『……ロベルト様は明日も朝からご予定があります。あまりお手を煩わせる事のないように』
『はい。すみません……ロベルトが教えてくれるって言うんで甘えちゃって……』
だろうな。
どうせ、この時間に2人でいたのだろう。
話の流れで教えるからと、部屋に取りに行かせたのか。
『熱心なのは良い事ですが、あまり夜更かしする事のないように』
『はい。失礼します』
夜更かし……
……は、するだろうな。
いかんせん彼女の事となるとロベルト様もはしゃいで困る。
『あ、アルベルトさん』
『何か?』
彼女がノートを抱えながらニコッと微笑む。
『明日もまた頑張りますね。おやすみなさい』
頑張り過ぎてやしないかと……
気を揉んでいたが……
(頑張るはずだ。彼女は……ロベルト様に支えられている)
チクン。
…………?
何だかやけに胸が痛い。
『医者にかかる暇もないというのに……』
……………AM0:00
内ポケットにある使い込まれた革の手帳。
そこに挟まれた万年筆。
使おうとしても中々使えず、結局手持ちの使い古した万年筆を使う。
それなのに彼女に貰った万年筆は手帳に挟んだまま。
結局、2本共持ち歩くはめになる為
やけにかさ張ってしまい少々困る。
大切に
何故だか大切にしておきたいと思ったからだ。
……*……*……*……*……