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□■ロベルトとデート
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喧嘩なんてのは初めてじゃない。







『いつも勝手だよ!』



日常茶飯事だ。



ロベルト『勝手って何?』



勿論、それはシンシアが相手だった場合であって……。



『いいよ!…もう知らない!』



言い捨て、キミが涙ぐんだ目のまま扉を開けて出て行く。


入れ違いでダイニングへとやって来たアルにぶつかりながら、『すみません』って礼だけは言って飛び出していった。


紅茶を手に現れたアルは、眉一つ動かさないで『また後でお持ちします』って、これまた気を利かせたのかダイニングを後にするし。


いつもなら直ぐに追いかけるのに、俺は頭を掻きながらテーブルに突っ伏した。



ロベルト『あーーー!もうっ!!』



ゴツッと音を立てておでこをテーブルにぶつける。


痛いや。



ロベルト『わかんないよ……』



そのまま、しばらく顔を上げられない。



……初めてキミとケンカしてしまった。











きっかけは些細なもので。


それはもう些細過ぎる程で。


最近全然2人でゆっくり出来なかったから、デートしたかっただけなのに。


時間もあったし(なくても作ってただろうけど)、隣町に雪が降ったって聞いて、キミと雪だるまとか作りたいなあって!


ソリ滑りして〜


雪合戦して〜


……って、思ったんだけど『シンシアと買い物に行く約束』って理由で断られちゃってさ。


ま、それはいいんだけど。


(悔しいけど!)


『俺よりシンシアのがいいんだ?』なんて、いつものやりとりから、まさかまさかの発展。


最終的にはいろ〜んな所に飛び火して、ケンカだよ。


ロベルト『大人気ないなぁ……俺』


普段なら、拗ねたって、怒ったって、可愛い!って思って気にしないのに。


ロベルト『……俺のが強すぎるのかなぁー…』


だって2週間だよ?


2週間、まともに一緒にいれなかったんだよ?


シンシアより、大学より、俺を選んで貰いたかったなぁ。


……なんて、ロブたん思っちゃうわけで。


ロベルト『俺の“好き”のが強すぎるのかなぁ……』


はあ〜、ガラにもなく女々しいや、今。


あ、でも俺って案外女々しいしな。


って、そーじゃなくって。


ロベルト『そんな風に思われてたんだな、俺……』


言われ慣れてるはずの『勝手だよ』って言葉。


イントネーションが変わるだけで、こうもダメージがあるなんて。


初めての事に情けなくも追いかけられないまま、やけに頭ん中でキミの泣き顔がグルグル回ってた。







…+.゚+…+.゚+…+.゚+…





(はあ……どうしよ)


アルタリア城から思わず飛び出し、街をとぼとぼ歩いてる。


(何であんなに強く言っちゃったんだろ……)


ロベルトに振り回されるのも、突然『出かけよう!』って言われるのも、いつもの事なのに。


(それでこそロベルトなのに……私ってば……)


同じ城内にいてもすれ違いばかり。


そんな日が2週間も続いた。


誘ってくれて嬉しかった。


でも、シンシアは毎日のように気にかけてくれて電話やメールをくれたり……。


そんな彼女と前々からの約束だったし、それに対して『ずるい!』とか『シンシアより俺と出かけよう』とかはいつもの事なのに……。


『何で私、ロベルトにあんなにきつく言っちゃったんだろ……』


すんっと鼻をすすり、こぼれそうになる涙を唇をキュッと結ぶ事で堪える。


どこからケンカに発展してしまったのかもわからない程、些細な内容。


(いつもならニコニコして私の上を行くロベルトが……怒ってた)


売り言葉に買い言葉。


言われた事に上乗せしていく内にエスカレートして……。


(ロベルトはいつも通りだったのに……私が勝手にイライラしちゃってたんだ……)


売るも買うもない。


彼はいつも通りおどけて言っていただけなのに。


私が反発しちゃっただけだ。


(私……子供みたい)


一緒にいたかった。


忙しい合間を縫って誘ってくれるのは、すごく嬉しかった。


でも最近、ロベルトとの婚約が正式に公表されて以来、毎日のように勉強して、でも大学の方も遅れを取っちゃってて……。


自分でいっぱいいっぱいになってる時に中々会えなかったロベルトに……。


『私、甘えちゃったんだなぁ……』


八つ当たり。


子供みたい……。


手が回らない事だらけで、そんな中友達と遊びに行くのもやっとで。


だからロベルトの誘いは嬉しかったけど、シンシアの方が先だったのもあり……。


シンシアもロベルトも、今の私も、中々暇なんて出来ない時に重なる予定。


何でこうも上手くいかないんだろう!って、勝手に八つ当たり。


(……ロベルト、怒らせちゃった)


ぽろっと頬に涙がこぼれる。


しかも、こんな時に限ってシンシアからの『今日、急な撮影が入っちゃって』っていうキャンセルのメール。


(話聞いてもらいたかったけど……きっと私がいけないんだってシンシアも言うだろうな)


自分に余裕がない時って、何でこうも周りにも余裕がないんだろう。


『ロベルト……っめんなさ……っ』


1番にあたってしまう人が、1番甘えられる人で。


『…ごめ…っ、ごめんなさい……』


大好きなのに八つ当たり。


そう思えば、如何に彼が大人だったかわかるのに。


(ロベルトだって、いっぱいいっぱいだったはずなのに……それなのに私ってば自分が上手くいかないからって……)


クリスマスを待ち望む子供が親にプレゼントをねだってる。


恋人達はショーウインドウ越しに目当てのものを指差し微笑みあっている。


ツリーやオーナメントで飾りつけられた店先に、流れる鈴の音やクリスマスソング。


私の心とは正反対に、街中は賑わいを見せていた。


そんな中を1人、俯き歩く。


(ロベルト……追いかけてきてくれなかった)


ぽろぽろこぼれる涙は、徐々に粒の大きさを増して、止まる事なく冷えた頬の上に流れた。


『ごめんね……ロベルトっ』


手の平に収まる携帯。


ケンカしておきながら、ロベルトからの着信を待っていた。


振り返っても彼の姿はなく、鳴らない携帯電話。


『ごめんね……っ』


そのまま1人、あてもなく歩いていった。







…+.゚+…+.゚+…+.゚+…






店員『はい、お待ちどーさま!この俺特製のとっておきのカフェオレさ!』


陽気な店員が差し出すカフェオレ。


『ありがとう』


道路脇に停まる、車を改造した移動カフェ。


落ち着こうと思い、ひとまず頼んだはいいけど……。


『……あれ?』


そこでハッと気付いた。


(そうだ、私あのまま出て来ちゃったからバック持ってきてない……!)


街までは常に待機している運転手に乗せてきて貰ったから、バスにも乗らなかったし気付かなかった。


店員『お客さん?』


怪訝そうな顔で店員が私を見る。


『あの、すみません!私……』


そう言いかけた時、目の前に勢い良くバンッと置かれるお金。


(え?)


店員と私の間に突如割り込んできた人物に目を向けた。


ロベルト『……っはぁ!そのカフェオレっ、これお金ね!』


『……ロベルト!』


そこには走って来たのか息が上がり、呼吸を整えるようにしているロベルトの姿。


ロベルト『はぁーっ。あ、あと水ちょうだい!』


ロベルトの顔を見た店員は目を丸くしながら、水を彼に手渡す。


それを一気に飲み干すと、グラスをコンッと置き、『はあ〜』とロベルトが安堵の溜め息をついた。


ロベルト『良かった。探してたんだ』


突然現れた彼に、私は言葉が出ない。


その代わり、目頭にまた涙が浮かんでくるのがわかった。


ロベルトが探しに来てくれた。


ホッとして今にもまた泣いてしまいそうだ。


ロベルトは店員が求める握手に応じた後、私を見つめてニコッと笑う。


ロベルト『やっぱりアルは優秀だね』


『……え?』


ロベルト『発信機。つけられてたみたいだよ?』


『ええ……?』


ロベルト『俺がいつも取り外しちゃうからね。だから付ける相手を変えたみたい』


『え?て事は私について……?!』


ロベルトが城を抜け出す時、決まって私も一緒だからだろう。


とうとう私にまでアルベルトさんが発信機を装備したみたいだ。


『だったら電話してくれれば……』


ロベルト『電源入ってなかったから。それにバックも財布も持たないで行っちゃうんだもん、心配したよ』


携帯を開くと画面は真っ暗。


いつの間にか充電が切れていた。


ロベルトは私の注文したカフェオレを手にすると、私に差し出す。


『あり……がと』


両手で受け取る。その瞬間、私はロベルトに抱きしめられた。


『ロベルト……?!』


2人の間で今にもこぼれそうなカフェオレ。


人前だろうと気にしていないような、力強い腕。


『ロベ……ルト……っ』


抱きしめられただけでわかる。


彼からの“仲直り”の合図だ。


ロベルト『……ごめん。泣かせちゃったね』


その一言で、もう溢れ出す涙。


ロベルト『全然、考え無しで悪かった。……ごめん』


『違うっ、違うの!私が勝手に……っ!』


ロベルト『ホント、ごめん。しかも直ぐに追いかけてあげられなかったし……』


『きら……嫌われちゃったかと思っ……』


ロベルト『まさか!嫌いになるわけない!』


痛いくらい、ギュッと抱きしめてくる腕。


ロベルト『好きだよ。大好きだ。1mmだって変わらないよ』


『ロベルト……ごめんなさ……っ』


ロベルト『……じゃあ、これでおあいこにしよ?』


『……おあいこ?』


ロベルト『ね、それでおしまいにしよ。で、またケンカしたら、またおあいこにしていこ?』


ロベルトが私の額にコツンと頭を寄せる。


ロベルト『“ごめん”の言い合いはもう終わり。だから……泣きやんで』


『ふぇ…っ、ひっく…無理……っ』


泣きべその顔。


それなのにロベルトは鼻の頭にちゅっとキス。


おでこに、頬に、瞼に、優しく唇が触れてくる。


『ロベルト……』


ロベルト『デートしよう』


『今から……?』


ロベルト『そ。シンシアに今日は代わってくれって電話したら、アイツ仕事だったんだね』


ロベルトは私から腕を離すと右手を差し出す。


ロベルト『今度は断らないで?……お姫様』


私はくすっと微笑むと、涙を拭った。


ロベルト『俺とデートしない?』


『……うん』


彼の手をとると、キュッと繋がれる。


『ヒュ〜!』という口笛と拍手。


カフェの店員と客達が暖かい瞳でこちらを見ていた。


ロベルトは彼らにウィンクをすると私の手を引いて歩き出す。


ロベルト『行こっか!』


『うん!』


ロベルトと久しぶりにデート。


少し冷めたカフェオレを交互に2人で飲みながら。


ロベルト『あ、これは外しておこうね』


ジャケットについていた発信機は取って。


2人の今日のやり直しをするの。








…………→Aへ続く★
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