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□■ロベルトとデート
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出だしからきたよ、『はあ?ばっかじゃないの?』ってね。
あ〜、こいつの口の悪さはどうにかなんないかな。
相変わらず容赦ないし。
シンシア『で、アンタは一体何やってんのよ!』
ロベルト『今から探しに行くんだよ』
シンシア『さっさと行きなさいよ!相変わらず肝心な時に限ってエンジンかかるのが遅いんだから!』
電話の向こうのシンシアがどんな顔して喋ってるのかなんて、わかりたくもないけどわかっちゃう俺。
ロベルト『うるっさいな!じゃあ、今日は俺が誘うから、仕事早く終わったからって邪魔するなよな!』
話しながらも携帯片手に車のエンジンをかける。
探さなきゃ。
早く探して、ぎゅうって抱きしめてあげなくちゃ。
シンシア『アンタのが好きだとかあの子のが好きだとか、競うもんでも比べるもんでもないでしょ?』
ロベルト『……わかってるよ!』
めいっぱいアクセルを踏むと城を出た。
シンシア『その時々でどっちかに感情は片寄るもんなんだから、それでいーの!アンタの“好き”が大きい時もあれば、あの子のが大きい時もあるんだから』
始まったよ、シンシアのお説教。
……でも、今は頭にガツンって響いて何か助かる。
シンシア『ケンカくらい何よ。他人となんかケンカなんて出来ないんだからね。お互いを認め合ってる証拠じゃないの』
ホントだよ。
シンシア『さっさと私の分もデートしてきなさいよね!』
お前の分は余計だろ!
なんて思いつつ、でも助かった……かな。
(悔しいけど!)
言い方はアレだけど、“このままでいい”んだって事だろ?
『勝手』でも何でも、やっぱりキミといたいって思うもんなぁ。
俺の方が“好き”が強いのかなぁ……なんて思ったけどさ。
だって好きだからね!
ロベルト『アル!今どの辺?!』
シンシアと電話を切って直ぐにアルに居場所を聞いた。
アルベルト『駅前通りを東に向かって移動中です。ああ、今は角の本屋前にいるかと』
ロベルト『え?!そんな細かくわかるもんなの?!』
はあ〜…そりゃ、俺も見つかるわけだ。
でも、今回ばかりはアルに感謝!
早く探して『ごめん』って言わなきゃ。
『ごめん』と『大好き』をいっぱい言わなきゃ。
ロベルト『わかった!また電話する!』
アクセルを更に強く踏み込んで車を走らせた。
そして……。
…+.゚+…+.゚+…+.゚+…
『……無理っ!』
ロベルト『だ〜いじょうぶだって!ほら、いい眺めだよ?』
『そ、そんな余裕はな……』
ロベルト『わあ〜。結構すごい傾斜だね!』
ガコンッ……!
ロベルト『きたっ。はい、しゅっぱーつ♪』
『……っ、きゃあああーーー!!』
上下左右に走るジェットコースター。
遊園地なんて、俺いつ以来だっけ?!
『こ、怖か……っ!』
ロベルト『楽しかったぁ!って、大丈夫?』
ホントは雪遊びに誘うつもりだったけど、どうせならキミととことんハッピーに。
ロベルト『じゃあ、はい。おんぶしてあげる』
『だ、大丈夫』
ロベルト『仕方ないなぁ。じゃ、抱っこする?』
『歩けるよっ』
ケンカしちゃった分、その倍の仲直りを。
ロベルト『あ、メリーゴーランド』
『ロベルト、乗りたいの?』
ロベルト『そういうわけじゃないけど、なんかエドちゃん乗ってたら似合うだろうなぁって』
『ふふ!何それ』
ロベルト『よしっ、乗ろっか!』
『乗るの?!』
キラキラメリーゴーランド。
くるくる回るティーカップ。
空飛ぶブランコに、フリーフォール。
ロベルト『やった!風船貰っちゃった〜』
『嬉しい?』
ロベルト『じゃあ俺、青ね。はい、ピンク』
『ふふっ、ありがと』
アトラクションよりも何よりも、キミが笑ってくれるのが1番嬉しい。
あー…やっぱり好きだなぁ。
なんて、改めて実感したりなんかして。
絶対、俺のが好きだよね、これ。
『ロベルト、次アレ乗ろう?』
ロベルト『おっ、いいね』
でもへこまないし!
だって無理だよ。
ロベルト『あ、待って!寒くなってきたからね……はい』
『マフラー……いいの?』
ロベルト『うん。これ巻いてて?』
衿に巻いてた赤いマフラーをキミにくるっと巻いてあげる。
鼻の頭が赤くなっちゃってるし、寒いよな。
そうそう。で、何が無理かって……。
『ありがと……あったかい』
真冬なのにヒマワリみたいな笑顔。
そうやってキミはいつだって俺の息の根を止めちゃうわけで。
ロベルト『手、つなご?』
『あ、待って。今風船持ち帰る……』
ロベルト『じゃ、風船も2個くっつけあっちゃおっか』
完敗です。
そりゃあ、俺のが好きになるって。
俺とキミとが手を繋ぐ。
その手首に風船の紐。
2つの風船が俺らの頭の上で、仲良くくっつき合ってた。
…+.゚+…+.゚+…+.゚+…
夜になると息の白さがはっきりわかる。
ロベルト『暗くなってきたね』
遊園地全体が輝き出す。
園内のツリーの電飾がパッと点されると『わぁ!』と歓声が上がった。
クリスマスが間近に迫っているからか、イルミネーション目当てに夕方から来園する人も多い。
ロベルト『キレイだなぁー。どうせなら上からも見てみる?』
ロベルトがニコッと笑う。
遊園地で言う『上』は観覧車1つ。
『うん、乗りたい』
笑顔を返し、ロベルトと観覧車目指して歩きだした。
『わあ……!キレイだね』
目線が変われば見える景色も変わる。
明かりのついたアトラクションに、園内の様々なイルミネーションとツリー。
そして街の光と星空。
ロベルト『いいね、観覧車。上からもキレイだな〜』
ゆらりゆらり。
ゆっくり地上から私達を空へと近付ける。
ロベルト『でも良かった。楽しんでくれたみたいで』
『うん、楽しかった!私も遊園地なんて久しぶりだったし』
それに久しぶりにロベルトと出かけられて、2人でいられて。
『ありがとう、ロベルト』
ロベルト『全然。俺が来たかっただけだから』
ケンカして泣いてた午前中。
それが信じられないくらい、今の私は嬉しくて楽しくて。
すごい事だよね。
怒ったり、泣いたり、笑ったり、幸せになったり……。
沢山の私。そのどれもがロベルトによってもたらされるなんて。
夜景から正面に座るロベルトに目を向ける。
ロベルト『ん?何?』
優しい微笑み。
優しい声。
何だかまた泣きそうになるよ。
ロベルト『ええ?!何でうるっときてるの?』
焦るロベルトにクスッと笑って、首を振った。
『大丈夫。嬉し涙』
ロベルト『嬉し涙……って、何考えてたの?』
キョトンとするロベルト。
『夜景がキレイで?』なんて的外れな答えに、またクスッと笑ってしまった。
『違うよ。ロベルトと一緒にいれる事への……嬉し涙』
そう言うと、ロベルトも笑みを浮かべた。
ロベルト『なんだ、俺も同じ事考えてた』
『え、そうなの?』
ロベルト『うん』
そう言うとロベルトは立ち上がって私の隣に座る。
観覧車が2人の重みで少し傾く。
ロベルト『これからもいっぱいケンカしてこうよ』
『いっぱいするの?』
ロベルト『そう、で、仲直りのキスをするんだよ』
『するの?もう仲直りしてるのに?』
ロベルト『そういえばしてなかったなって思ってね』
ロベルトの顔がゆっくり近づいてくる。
ふっと笑ってロベルトが私の首に巻かれたマフラーに手をかけた。
ロベルト『これ、邪魔……』
『ふふ、自分で巻いたんでしょ?』
彼が私にぐるぐる巻きにしたマフラー。
私の口元まで覆っていたそれを、少しずらす。
『好きだよ……ロベルト』
ロベルト『うん。でも……俺のが好きだけどね!』
ちゅっと軽く触れる唇。
『ええ?私のがじゃない?』
ロベルト『そうかな?俺のが好きだと思うけどなぁ』
合間、合間に何度も触れる唇は、その間隔を徐々に長くしていく。
ロベルト『じゃあ、これもまたおあいこだね』
あんなに見とれて眺めていた夜景も、今は目の前のロベルト以外、私の瞳に映らない。
『あ……もう下に着いちゃうよ?』
ロベルト『ホントだ』
次もケンカしたなら、こうしてまた遊園地に来ようね。
今度は違う遊園地。
ロベルト『………もう1周しよ』
そうやって、いつか世界中の遊園地を回るくらい、沢山ケンカして。
また仲直りしていこうね。
観覧車は私達を乗せたまま、また夜空に上がっていく。
隣街に降ったという雪が、この街にも降りてきた。
窓の外にひらりと舞う白い粉雪。
それに気付かないくらい、ロベルトの腕の中で……。
私は彼の温もりに包まれていた。
よっぽど疲れたんだな。
まあ、泣いたりしちゃってたし、その前にも相当歩いただろうし。
助手席ですやすや眠る顔が、また何とも可愛い。
ロベルト『……眉毛さがっちゃってるし』
信号待ち。
その間におでこにキスをして、また青信号。
ロベルト『クリスマス。楽しみにしててね』
キミと最高のクリスマスを。
……*……*……*……*……