ファーストラブ(長編)

□ファーストラブ 2
1ページ/1ページ

ともだちって…恋人やめたからって、友達にって…そんな、そんなモノなの?
ありえない、ありえないだろっそんなの!!!
少なくとも、僕には無理だ。あの人を手に入れた後、手放すなんて…
友達に戻る?はっ!冗談でも無理だ。どうしても、どうしても手放さなきゃいけないのなら、もう、絶対二度と会わない。
じゃなきゃ、無理。
なに?なんなの?あの人たち。
ほんとムカつく!
そんな軽い気持ちだったんなら、なんで付き合ったりしたの?
夏希ねぇ、もういらないの?
なんであの人は僕のじゃないの?!
ちょうだい!ちょうだいよっ俺にくれっ!大事にするから、一生大事にするからっっっ

「う…あ、ああっあああああああああああああ!!!!!!」
佳主馬はベットに突っ伏し、慟哭した。
佳主馬が、健二への恋心に悲嘆して声をあげて泣いたのは、これが最初で最後だった。




土曜日の夕方。聖美は買い物に出ていた。
ちょろちょろと動き回る二歳の幼児を連れた買い物に思いの外手間取ったうえ、家の近くで近所の奥さんにつかまってしまった。
聖美が予定していた帰宅時間を軽く1時間程オーバーしていた。

------ああ、急いで夕飯の支度をしなくちゃ…

3歩〜5歩歩く度に、道路にしゃがみ込んでは石を拾ったり、花を眺めたりしている佳美を何とかせかしつつ、やっと家の前にたどり着いた。
ふと二階の佳主馬の部屋の窓を見上げる。
買い物に出かける時、本当は佳主馬についてきて貰って、荷物持ちと佳美の相手をして欲しかったのだが、丁度、健二君とビデオチャットをしている所だった。

佳主馬はびっくりするほど健二君に懐いている。
あまり、家族や親戚以外に心を開く事のない佳主馬が、その家族や親戚以上に心を開いている。

あの、ひどいいじめを克服して以降、学校ではソツなく過ごしている様ではあるが、特に親しい友達がいる様子はない。
だから、健二君との関係は親としてとても喜ばしく、大事にして欲しいと思っている。
だから、買い物にはとっても!ついて来て欲しかったけれど、留守番を頼み、家を出たのだ。

もう大分日が傾いてきているというのに、佳主馬の部屋に明かりは点いていなかった。

------居間でテレビでも見ているのかしら?

玄関の鍵を開け、ガチャリとドアを開ける。予想に反して、家の中は薄暗く、シン…としていて、一階に人の気配は無い。

------あら?どっか出掛けちゃったのかしら?

「まま〜、あんよ。」

「はいはい、今脱がしてあげるから。」
玄関の上り框にちょこんと座り、足をぶらぶらと振って、早く靴を脱がせろと催促してくる。
買って来た荷物を置いて靴を脱がしてやると、バタバタと部屋の中へ駈け込んで行く。

「にーたーーーん!にーたーーーん?」

今、買って来たばかりの荷物を持ってキッチンに入る。
佳美は、広くもない一階を走り回り、佳主馬の姿を探している。

「まま〜、にーたんいな〜い。」

「ん〜〜、そうねぇ。いないねぇ?」

「え〜〜〜〜〜!」

「ほら、テレビつけてあげるから。」
そう言いながら、リビングの方へ移動すると、佳美はバタバタと走って聖美を追い越し、テレビの前のソファへよじ登った。
お気に入りのテレビ番組をつけてやると、おとなしくテレビを見始めた。


------さて、本当に佳主馬は出掛けてしまったのだろうか?

なんとなく気になり、2階へと上がり、佳主馬の部屋のドアを一応ノックしてからドアを開けようとしたが、開かなかった。鍵がかかっている。
やはり、出掛けてしまったのだろうか?

佳美が生まれて、ハイハイをして家中を移動出来る様になってから、佳主馬の部屋に鍵を取り付けた。
ドアノブごと取り替えて、内からも外からも鍵がかけられる様にしたのだ。

佳主馬の部屋の中には、佳主馬の仕事関連の資料やら、道具やらが沢山ある。
もし、この部屋に佳美が入り込んでしっちゃかめっちゃかにしてしまったら、それはそれは大変な事になるだろう。
下手にいじれないモノが多いので、この部屋の掃除も佳主馬が自分でしている位だ。

しかし、部屋の中から気配の様なモノを感じ、声をかけてみる。

「佳主馬?いるの?」

「………んー。」
少しの間の後、返事が返って来た。

「なんだ、いたの?ちょっと、鍵空けなさいよ。」

「………頭痛い。寝かせて。」
佳主馬がドア近づいて来る気配は無く、声だけが返って来た。

「やだ!あんた。ひどい声じゃないの!?風邪?」

「ん。多分。とにかく寝たいから。寝かせてよ。」

「わかったわ。じゃあ、目が覚めたら下に降りてきて、何か食べて薬飲みなさいよ。」

「…わかった」

「おやすみ!」



その日は結局、佳主馬は一階には降りてこなかった。
そして、次の朝起きてきた時の顔色は酷いものだった。

その顔を見て、聖美は僅かな違和感を感じる。

------あら?この子、こんな顔付きだったかしら……

しかし、あまりの顔色の悪さに、その違和感もかき消されてしまった。
昨日起きてこなかった割には、あまりぐっすり眠れていないのか、瞳は落ち窪み、赤く充血している。
顔色も、元が色黒なので分かり難いのだが、血色が悪く、白く…というか、グレーっぽく見える。

「ちょっと、あんた酷い顔ね。」

「ん。今日は、学校休んで寝てる。」

「そうね。そうしなさい。病院は?熱あるんじゃないの?」

「んー。大丈夫。あんまりないから、寝てれば治る。」

「そう?ごはんは?」

「今は、いらない。後で食べる。」

そう言い残すと、佳主馬はまた、2階の自室へと引き上げていった。


佳主馬が体調を崩すなど、珍しいことであった。
世界時間で動くOMCで活躍する佳主馬は自己の体調管理も自分でしてきた。
OMCを続ける上で、佳主馬がチャンピオンになった後、家族会議で約束したのだ。
OMCのために家族に迷惑をかけない。
学業を疎かにしない。
だから、試合時間の調整の交渉などもOMC側ときちんと行い、試合の時間にPCに向かうための個人的な時間調整も佳主馬は自分で行っていた。
その合間に、スポンサーたちとの交渉も行い、ゲームの開発も行っていた。
それらを然程無理なくこなす佳主馬は、やはりそういった天賦の才をもっているのだろう。
それは、本人も、周りの人間も認めるところであった。



…そして、聖美は、見落としたのだ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ