Don't miss a good chance.(長編)

□Don't miss a good chance.9
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玄関のチャイムに気が付いた健二は勉強の手を休め、ダイニングキッチンに取り付けられたインターフォンのカメラを起動させる。


「はい。」

『お荷物です!』

「ちょっと待ってください。」

宅急便が届いた様だ。健二は印鑑を片手に玄関に向かう。



「すいません、おまたせしました。」

「小磯健二さんにお荷物です。」

―――――え?僕?…誰からだろ??

印鑑を指定されたところに押すと、「ありがとうございましたー!」と言いながら配達員は小走りに去って行った。

届けられた荷物は20cmx30cm位の箱で、厚さは7cmくらいだろうか。玄関ドアを閉めて施錠すると、差出人を確認する。

「あれ??佳主馬くん?」

佳主馬から自分宛に荷物を送ったなどとは一言も聞いていなかった健二は困惑する。

佳主馬はよく健二に貢物をする。主にキング関連のオフィシャルグッズやレアアイテムだ。佳主馬としてはその他にも健二を喜ばせるためなら何でも贈りたいのだが、意味も無く贈り物をしても遠慮深い健二はなかなか受け取らない。だがしかし、キングが大好きな健二はキング関連の品物だとファン心理が働いて拒み辛いのだ。それを知った佳主馬は、普通なら手に入りにくいオフィシャルグッズや限定品、試作品などをスポンサーにお願いして手に入れては、健二に送ってくる。

最初はびっくりして、『貰えない!』と健二はやはり断ろうとしたのだが、『健二さんのために手に入れたんだから健二さんが要らないなら捨てるけど。』と言われ、健二は青くなったり赤くなったりしながらさんざん逡巡した挙句、『頂戴致します!!』といつの時代だかわからない言葉を叫んだのだった。その時の健二の様子を携帯の動画で録画しておかなかったことを、佳主馬は今でも後悔している。

どの品物も契約スポンサーから無料で手に入れた品物ばかりで、佳主馬の懐は一切痛むわけでもないらしいので、健二も『それなら…』と遠慮なく受け取る事にしたのだ。

いつも荷物を送って来るときは、事前にメールやチャットなどで『〇日頃に荷物が届く予定だから』と知らせてくれるのだが、今回は何も言われていない。

訝しげに箱を見詰めていた健二だったが、いつまでも眺めていても仕方が無いので、きれいに包装された包み紙をはがしはじめる。すると、どこかのブランド物らしいロゴが打たれた綺麗な化粧箱が出てきた。健二はあまりブランドには詳しくないため何処のモノなのかはよく分からない。机に置いた化粧箱の蓋をそっと開けると、中には手袋が入っていた。

「う、わあ」

光沢のある明るいキャメル色。手に取って触ってみる。とてもしなやかな肌触りだ。何でできているのかとタグを見ると、鹿革と書いてあった。

そして、手袋と共に、箱にはもう一つ綺麗にラッピングされた長方形の小さな箱が入っていた。

「これは?」

ラッピングを解くと、ふわりと甘い香りが漂ってきた。

―――こ、れは…チョコ?

蓋を開けると一口サイズのとても美味しそうなトリュフが3つ。きれいに並んでいた。

「え?これって…あっ!今日って…」

健二は壁に掛けてあるカレンダーに急いで視線を走らせる。

「バレンタインデー?」

これは、佳主馬からのバレンタインプレゼントだ。それに気が付くと熱がのぼり顔がほてってくる。

――――どうしよう…嬉しい。

チョコレートに蓋をすると、再び手袋をそっと手に取る。とてもいい肌触りだ。手にはめてみるとピッタリとフィットして付け心地も抜群だった。

手袋をはめたまま、そっと自分の頬を包むようにする。柔らかくスベスベとした感触がとても気持ちが良い。

そのまま顔全体を覆う様にして俯くと共に、健二はその場にしゃがみ込んでしまった。柔らかなくせ毛の合間から覗く耳は真っ赤に染まっている。

以前に比べて会ったり会話したりする頻度がグッと下がっていた今この時に、不意打ちで届いた贈り物。騒ぎだし溢れ出る心を留める事が出来ない。

――――どうしよう…本当に嬉しい。どうしよう。

さっきから健二の頭の中ではそればかりがぐるぐると回っていた。





年末に病気をした時に自分がかなり佳主馬に惹かれ初めている事を自覚して以来、それまでは多少困りつつもスルー出来ていた佳主馬の求愛行動に一々心が反応してしまう。

『健二さん大好き』と言われれば思わず言葉に詰まり、顔が赤くならない様に必死で気持ちを静めなければならないし、キスをされればうっとりしてしまい、文句を言う勢いも弱くなってしまう。

自分と目が合うだけで、ふと笑みをこぼしたり、自分が作った何の変哲もないカレーライスを『すごく美味しい』ととても嬉しそうに食べたり…そんな佳主馬を見る度に心が浮き立ち表情がだらしなく緩みそうになる。

自分はもう佳主馬くんを好きになっている。健二は認めざるをえなかった。

そして健二は年末以降、自分の心の変化を佳主馬にさとらせないために必死に取り繕う日々を送っていた。

恒例の様にほぼ毎日行われていたチャット。佳主馬と話せる嬉しさと、ボロを出してしまうのでは…という不安感と…ダブルの緊張で身が持たない!と感じた健二は、受験本番が近付いた事を理由に中止した。

実際、受験直前のこの時期に愛だ恋だと浮かれている場合では無く、何とか、日々の心の平安を取り戻した健二だったが、仕事で上京してくる佳主馬と会う事までは拒絶出来なくて、直接会う時は緊張と嬉しさで前日はあまりよく寝られない。

そして直接会えば事あるごとにスキンシップをはかろうとする佳主馬に、嬉しいやら恥ずかしいやらですぐに熱が上がりそうになる。

それを、とにかく、必死で、健二は隠した。

今までの佳主馬の積極性を考えれば、健二の気持ちが佳主馬に傾いている事を佳主馬が知れば、きっと、怒涛の勢いで全てを持っていかれてしまう。

佳主馬はまだ中2だ。いくら何でも早過ぎると思うのだ。せめて、佳主馬が中学を卒業するまでは付き合いは控えるべきだと健二は思っている。

佳主馬がどれほどしっかりしていようとも、やはり中学生はまだまだ子供だ。ましてや自分達は男同士だし、引き戻せないような関係になるのは早すぎる。

けれど、佳主馬が好きだと自覚してしまった今では佳主馬に強引に押し切られてしまったら自分は拒み切る事は出来ないだろう。普段でさえ流され易いのに…。絶対無理だ。

だから、佳主馬には絶対に、気付かれる訳にはいかないのだ!



しかし…しかしどうしよう…このプレゼント。嬉しい。すごく嬉しいのだ。





◇◇◇




「ねえ!佐久間!どうしたらいいと思う!?」

「知らねーよ!」

「なんでだよっ」

「なんでも何も、ありがたく貰っときゃいいだろ!」

「だって、お返しとかどうすんのさっ」

「ホワイトデーにクッキーでもやればいいだろうが。」

「だって、どんな顔して渡したらいいんだよ。」

「ふつーに渡せよ、ふつーに!『ありがと』ってニッコリ笑って渡せば、どんなモノでもキングは大喜びだよっ」

「ええ〜〜〜〜〜、だって…、ええ〜〜〜〜〜、ホワイトデーとか、はずかしいよ…」

「…………なに、お前。もしかして、とうとうキングに惚れた?」

「………………」

「ほほ〜〜〜〜〜〜。そうかそうか。ついに落ちたか。」

「うう〜〜〜」

「んじゃ、それこそ何も問題無いじゃねーか。ホワイトデーにお返しと一緒に告白しとけよ。合格発表も終わってるし、バッチリじゃねーか。」

「ダメ。ムリ。」

「何でだよ?晴れて両想いだろ?」

「だからダメなんだって!そうなったら僕には佳主馬くんを止められないよ。まだ中2だよ?佳主馬くん。」

「ああ…そうか。そうね。う〜〜〜ん……確かに…」

「という事で、佐久間から渡してもらうとか。」

「訳わかんねーよ!!それこそキングに何て説明すんだよ?」

「……ダメか(ちっ)」

「おまっ今舌打ちしただろ!…はあ…もう、キングと同じように郵送すればいいんじゃね?」

「そっかー。そうだな。そうしようかな…。うわ〜〜、でも何返そう?」

「マフラーとか?」

「う〜〜ん。…ムリ、かな。」

「何でよ?」

「佳主馬くんが着けてるの見たら、きっとまともな顔してらんないよ。」

「う〜〜〜〜〜わ〜〜〜〜〜〜、ひくわ〜〜〜〜〜〜。ベタぼれですか。」

「なんだよ!うるさいなっっ佐久間のバカ!」

「じゃ、消えるモノのがいいな。菓子か?」

「佳主馬くん、あんまり甘いモノ好きじゃないんだよね〜」

「せんべいバリバリ食わしとけや!」

「なんか、色気がない。」

「…ナニガシタインデスカ?ケンジクンハ。」

「お返しがしたいんです。」

「もう、ちゅーでもしとけ!」

「バカ!佐久間のバカ!」

「こっちのセリフだっ!」


そんなこんなで『困った時の佐久間様頼み』で電話をしてみたものの、結局、健二的には佐久間は全く役に立たなかったのだが、直接手渡すのは避けて郵送にしようとだけは決めた。





◇◇◇




『プレゼント受け取りました。とても気に入りました。こんな高級そうな品物を身に着けるのは気後れしちゃうけど、大事に使わせて貰います。チョコレートも早速一粒だけ食べました。今まで食べたチョコレートの中で、一番おいしかったです。受験直前で昂ぶっていた神経が、少し落ち着きました。佳主馬くん、ありがとう。』

とてもじゃないけど、直接お礼を言うなんて事は出来ない健二は、メールを送った。本当に嬉しかった本心の全てを晒すことは出来ないけれど、気持ちのほんの一部だけでも届けたい……そんな思いで文章を綴った。




◇◇◇




送り返される事も覚悟で送った、バレンタインプレゼント。受け取ってくれたばかりか、心のこもったお礼メールまで貰って、佳主馬は自室で身悶えていた。

――――――『今まで食べたチョコレートの中で、一番おいしかった』とかっ!!け、健二さんっ可愛過ぎるだろっっっ会いたい!会いたいよ!!健二さんっ。大学とか、マジ滅べばいいのにっっっ!!

メールに速攻で保護をかけて、PCにも転送して、永久保存したのは言うまでもない事だろう……。















あとがき:実はこの話、去年のバレンタインにUPしようと途中まで書いて時間が無くて断念していたネタでした。つまり、1年ぶりの更新って事ですね……す、すみませんっっっ
あ、あと、誰も気が付いてなかったとは思うんですが、前回の風邪ひきネタの時に年齢設定を間違えていたので、こそっと直しておきました。健二さんまだ高校生なのに、大学生になってました。やばいやばい。
続きはホワイトデーにUP出来たら…と思っております。で、できる…かな?

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