Don't miss a good chance.(長編)

□Don't miss a good chance.1
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「ねえ、夏希ねえ。僕、健二さんに約束してもらったから。」

「へ?何を??」

「僕の恋人になるって。」

「はあぁぁぁぁぁぁあああ!?」

「僕の背が健二さんを越えたらね。」

「………」

「だから、健二さんに手をださないでね。」

「ち、ちょっと佳主馬!」

「用件はそれだけだから。よろしく。」

「ちょっっ…」

自分には滅多にかけて来ることなどない、小生意気な又従弟からの突然の電話は、これまた突然の宣戦布告を残し、突然切られた。




「健二君!!一体どういう事なの!?」

「え?か、佳主馬君、夏希先輩に話したんですか?!」

「話したとかじゃないわよ!宣戦布告よ宣戦布告!!何がどうなってんのか説明してよ!」

「えと…あの…ですね……」

健二自身、まだ混乱しているのだが、ものすごい剣幕の夏希に促されるまま、昨日の佳主馬とのやり取りを話し出した。



春休みを利用して、佳主馬は東京へ来ていた。滞在期間は5泊6日。仕事半分、遊び半分だ。
仕事を片付けなければならない最初の3日間は、スポンサーが用意した立地の良いホテルに滞在し、そして残り2泊は健二の家へ。

スポンサーとの打ち合わせなどで、いままでも何度か東京へは来ていた。しかし、まだ中学生の佳主馬は土日を利用して一泊するのがやっと。その度に、わずか数時間でも時間を作り、健二に会いに来てはいたのだが、今回の様に健二の自宅へ泊めてもらうのは初めてだった。そして今回、佳主馬は並々ならぬ決意のもと、東京へ訪れていた。

------健二への告白。------

あの事件から、早7ヶ月。健二に対する憧れや尊敬の気持ちは、いつの間にか別の感情へすり替わっていた。…いや、最初から…そうだったのかもしれない。あれは、憧れなんて生易しい感情じゃなかった。衝撃だった。それまで、自分には才能があると思っていたし、また、それに奢ることなく努力もしていると自負していた。そんな僕のプライドは、ラブマシーンを前にして、嵐の中の枯葉のごとく吹き飛んだ。そして、膝をつこうとする僕の手を、あのひょろひょろのへなへなの健二さんが信じられないぐらいの力強さで引っ張っりあげてくれたのだ。怖かった。とても怖かった。もう全部、かなぐり捨てて、逃げ出したかった。逃げ出そうとした。けど、絶対にあきらめない健二さんを前にして、僕は顔を上げずにはいられなかった。うつむいたら、背を向けたら、見られない。健二さんを。健二さんが見つめる先を!

最初は、分からなかった。自分の気持ちが。なんでこんなにも健二さんに会いたくなるのか。

楽しくチャットをしていても、健二さんの口から夏希ねえの話題が出る度に胸の奥がズキリと痛み、何とも言えない不快感が広がっていく。共通の知り合いであり、健二さんの憧れの存在でもある夏希ねえの話題は、度々出た。それが、あまりにも苦しくて、連絡するのを止めようと思った時もあったけど、健二さんの顔が見られない、声が聞けないと、やはり、胸が苦しくなるんだ。

今、健二さんは何をしているんだろう。僕じゃない誰かとチャットをしているのだろうか。そして、笑顔を振りまいているんだろうか。あの笑顔は、僕のモノなのに僕のモノなのに僕のモノなのに僕のモノなのに!!……涙が出た。びっくりした。なんで!なんでこんな気持ちになるんだ!!?------------- 一晩泣いたら、心が決まった。もう、認めるしかないんだ。


ぼくは、健二さんが好きなんだ。



それからは、必死だった。少しでも健二さんの気を引きたくて、健二さんがファンであるキング・カズマは大いに利用した。勉強を教えてもらう口実を作ろうと、わざと成績を下げた時は逆に母親からネットを禁止されそうになってあわてた。夏希ねえの話題にも辛抱強く耐えた。
そうこうしている内に、どうやら、夏希ねえと健二さんはまだ正式には付き合っていないらしい事が分かった。受験生である夏希ねえに健二さんが遠慮して、デートすら一回もしていないらしい。

今しかないと思った。流されやすくて、一見、優柔不断に見える健二さんだけど、一度心を決めたら揺るがない。夏希ねえと正式に付き合い出したら、僕がつけ込む隙は無くなるだろう。夏希ねえがふりでもしない限り。
そして、その可能性は極めて低い。なぜなら、陣内一族は、健二さんをとても気に入っているからだ。夏希ねえが受験真っ只中で来られないにもかかわらず、冬休みにも陣内本家へ健二さんを拉致ってきた位だ。普段から留守がちな健二の両親は、あろうことか、年末年始も出張で留守にするというのだ。チャットでその事実を知った僕が母親にリークすると、あっという間に健二さんを本家へ連れて行く算段が整った。何だかんだと遠慮して、本家へ来ることを了承しない健二さんを、理一叔父さんが有無を言わせず車に押し込み、文字通り拉致って来た。

大恩があり、お気に入りでもある健二さんを正式に陣内一族に迎え入れるべく、一族総出で夏希ねえと健二さんをくっつけようとしている迷惑な!親戚一同。
一旦くっついたもんを、別れさすはずがない。そうなったら、子供の僕にはもう太刀打ちが出来ない。

夏希ねえがもう大学に通い始めて、生活が落ち着いたら、もう間に合わないかもしれない。いや、春休みだって危険だ。

今しかない、今しかないんだ!!

僕は、早速スポンサー達と調整をつけて、春休みに入ると同時に上京することを決め、健二さんに告げた。珍しくゆっくり滞在できることを知って、健二さんはとても喜んでくれた。僕も嬉しい。
健二さん、覚悟しといてね。逃がさないよ。
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