エゴイスト
□ヒロにゃんのやきもち
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「………」
ムカムカと怒りが上昇してくる。
それもこれも、すべて、あいつのせいだ。
「こらタマ!」
バタバタとリビングを駆けまわる野分を、俺はソファの上からジッと見つめる。
走りすぎたのか、頬が紅潮している。
あまり見せない火照った表情の野分にトキめきながらも、その表情が向けられているのは俺じゃないということにイライラする。
(俺、こんなに心、狭かったっけ…?)
野分に出逢ったせいで、俺は変わった気がする。
いい意味でも、悪い意味でも。
「みゃー」
甘ったるいその声に、ヒクヒクと頬がひきつる。
『上條ちゃーん、素敵なお顔にシワが刻まれちゃってますよー』
あぁなんかもう、宮城教授の幻聴まで聞こえてきやがった。
俺はムッと顔を歪め、野分の足もとで駆けまわる“それ”を睨んだ。
話はさかのぼること、数十分前。
久々に帰宅した野分と休みが合い、久々にデートに行く予定を立てた。
浮足立ってマンションから出ると、目の前のゴミ捨て場に、捨てられてはならない“それ”が捨てられていた。
そう、子猫が…
「みゃーん」
お人よしだけでは足りず、お猫よしでもあったらしい野分は俺とのデートより子猫の安否を優先させた。