【斉木楠雄のΨ難 1】
□【めぐり逢うキセキ】
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『───あのさ、ズボンのチャック開いてるよ』
それが、父さんと名字のおじさんの出会いだった。(らしい)
Ψ【めぐり逢うキセキ】
その日の朝、起きた瞬間から楠雄は異変を感じていた。
[何か妙だ]
一見していつもと変わらない朝。しかし、どこか胸騒ぎにも似た感覚がつきまとう。
その正体を掴めないままベッドの上でしばし思案していると、ふと気が付いて楠雄は頭上を見た。
[何だこれは。人気投票?]
【人気投票 第1位 斉木 楠雄 3869票】
よくわからないが、宙に浮かぶ謎のボードにはそう書かれていた。
普通の人間ならばすでにかなりの動揺を見せるところだった。それでも楠雄は事がそこに至っても、表情を1ミリも動かすことなく冷静に目の前の事態を受け止める。
超能力者の彼にとってそれは、
"また新しい超能力を獲得したか?"
という程度の感覚だった。
───しかし。
「おはよー斉木くん!」
「キャー 顔を出したわー!」
「斉木くんこっちを向いてー!」
「一緒に学校行こうぜー!!」
[・・・・・・・・・]
宙に浮かぶボードは邪魔だから消えてろと言ったらあっさり消えてしまった。
けれどもその後気が付いた外の騒がしさに窓を開けて見てみると、自宅前には黒山の人だかりが出来ていて。
「朝だよ 斉木さーん!!」
「斉木くん素敵ー!」
その人だかりから向けられるのは、いずれも楠雄がいままで生きてきたなかでは一度として他人から向けられたことのない好意的な言葉たちばかりだった。
[・・・超能力は使えるから、夢ではないはずだが・・・、]
たまに寝ぼけて超能力者じゃなくなった夢を見ることもある自らの寝ぼけ癖を自覚しているので、楠雄は努めて冷静に状況を分析しようと試みる。
[まさか、寝ぼけてマインドコントロールでも暴発したか?]
父母が言うところの【おねちょ(寝ている時に超能力使っちゃう事)】の癖は、小4でとっくに卒業した。
しかしそれも、頭につけたこの制御装置があってのことだ。
[修学旅行でうっかりと外で寝入ってしまった時、照橋さんに "コレ" を外されて久しぶりにおねちょしてしまったが・・・、]
側頭部に二つ、対でついている制御装置の存在を楠雄はしっかりと確認する。
[・・・何が起こっている?]
思わず閉めてしまった窓の外からは、
相変わらずワーワーとうるさいくらいの歓声が聴こえていた。
いよいよもってのそのおかしな事態に、楠雄はようやく脂汗をひとつかいた。